日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.13

2012年4月30日発行

巻頭言

「教える」こと、「育む」こと

言うまでもないが、本学会名は日本「社会福祉教育」学会である。「~教育」を逆引き広辞苑(第六版)でひくと、安全・一貫・一般・英才・音感…教育などと並ぶ。中身を見ると、①安全教育:交通事故・災害…などから子どもを守り安全の維持向上を目的とする教育。②一貫教育:六-三-三制の…でなく、同一の学校で通して行う教育。③一般教育:専門教育の基礎となる基本的な教育。④英才教育:優れた才能を持つ者に対する特別な教育。⑤音感教育:音楽の鑑賞・表現に必要な感覚を養う教育…などとなる。

これを見ると「~教育」の表現は、A:①や③⑤のように、その教育の目的を示した表現、B:②のようにその教育の特徴を示した表現、そしてC:④のようにその教育の対象(結果としての目的も含む)を示す表現などとなろう。では、「社会福祉教育」はどうなるのだろう。「福祉教育」の場合であれば、ほぼA のカテゴリーに入るのではないかと思う。本学会が言う「社会福祉教育」でも、もちろんA の目的を示した側面があるが、実はC の側面としての議論が多いと思う。そこでの学生は「社会福祉専門職を目指す者」や「社会福祉を専門的・学問的にきちんと学ぼうとする者」などと教育する側は期待している。しかし現実には期待通りにいくとは限らない。所属校による差も大きいかもしれない。いずれにしても、C の側面だけでいきたいが、そうしきれない現実があるのではないか。

単純化すれば、C を「あるべき」姿として語る立場と、現実を踏まえてA を意識しながら語る立場とがあるように思う。C の立場の人にはA は歯がゆいだろう、A の人にとってはC は分かるけれども乗れないという気分なのではないだろうか。私自身はどうなのだろう…と自問自答してみた。多分、どちらかと言えばAではないかと思う。ただ、A だとその目的自体が多様で、なかなか一貫した主張が出てこないように思っている。強いて言えば、C の立場の人にしても、現実として専門(職養成)教育に乗らない、乗りたくない学生にどのように対応していくのか、専門(職)へと誘(いざな)う教育を考える、切り捨てるのではなく現実的に教員(集団)レベルで可能なことは何なのかを一緒に考えて欲しいとは思う。

社会福祉専門職の仕事が、あるいは学としての社会福祉学が魅力的であることを伝える事は専門(職養成)教育にとっても重要だと思うし、単純に専門(職養成)教育を体系的に進めていくこととは、ややズレる試みが必要なように思っている。

ところで、いずれの立場にしても気になる事柄がある。結局、どちらにしても「教育」の学生たちに対する影響力の強さを前提しているように思える。最近、「親がいても子は育つ」という言い方を耳にするようになった。「いなくても」ではない。この言い方で言えば「学生は教員がいても育つ」であろう。教育する側がどうこうしようと思っても、そのようになるとは限らず、実は、教員の姿や周りの環境などの影響を受けながら「勝手に育っていく」。それをあたかも教員の教育力のおかげであると思っているのは一人教員のみであったりする。

「教育」の「教」の方には「本来の意味からすると、“強制”の雰囲気がある漢字」であるという。親鳥がその羽で雛をおおい包むという意味のある、「育(はぐく)む」方はどうなっているのだろう。教育現場はもちろん、社会全体に余裕がなくなり、余りに性急に結果を求めすぎているようにも感じる。私たちのできることは粘土から思うとおりに造形していくような事ではなく、環境を整え、刺激を与え、そして事あらば守る準備をしておいて、後は学生が(勝手に)育つのを待つだけなのかもしれない。でも、何が学生にとって、そして社会にとって「良い」環境で刺激なのか、未だ分からない。どのような教育実践が誘いの教育として有効なのかまだ分からない。学会としての課題はまだまだある。そんなことを思いながら新学期を迎えていた。

副会長 杉山 克己(青森県立保健大学)

目次

  • 巻頭言~「教える」こと、「育む」こと
  • 第2回春季研究集会開催される
  • 2011年度第4回理事会報告
  • 入退会報告
  • 2012 年度・第8回大会について
  • 会員アンケートの結果について
  • 学会指定研究の経過と計画
  • 学会探訪~日本保健医療福祉連携教育学会~
  • 会員の声~私の福祉教育~
  • 学会誌投稿募集・編集後記

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日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.13[1.55MB]

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