日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.17

2013年4月15日発行

巻頭言

苦しい時こそ「原点に立ち返れ」の教訓

このところの社会福祉をめぐる厳しい課題の中に「福祉離れ現象」と「福祉職員の慢性的不足」がある。

その背景には、様々な要因が関与し、分野・領域によっても事情は異なるが、社会福祉にとっては、誠に深刻そのものである。社会福祉はいつの時代でも、人間の尊厳を守り、人権を擁護する基本理念の具象化の一環として、重要な役割を果してきた。つまり国民にとっても福祉問題そのものは、生活上の重要問題であり、放置できない喫緊の課題である。にもかかわらず、最近、福祉系大学や専門学校の受験生の斬減傾向は、少子化も併せて深刻な状況となっている。

人々は疾病罹患と同じように自らの身の上に社会福祉問題という火の粉が降りかからない限り、これらを等閑視し、可能であれば回避しようとする傾向がある。したがって、当事者として、生活課題に直面し、取り組みかつ日常生活に呻吟する事態となった時に初めて課題意識が芽生え、その意義を感得し、やがて実行や活動を開始するというのが一般的である。

こうした状況を改善する方策の一つとして、すべての人々に可能性のあるリスク(危険の可能性)を共有するための「リスクコミュニケーション」システムを構築する必要がある。このことによって、平素から相互にリスクを共有し、事象の発生に備え、事態に即応できる体制を構築しておく必要がある。そのために豊かな情報提供と体験学習の場と機会を幅広い層の人々に向け拡大させることが不可欠である。そして、これらは、できれば幼児期からこうした知識の提供や体験をさせる場と機会を用意することである。この試みは「小学低学年用の福祉副読本」の発行などすでに 1970 年代から試みているが、定着していない。さらに近年では、印刷紙媒体による情報提供のみではなく、先端情報技術(IT)を駆使した方法による情報提供や遠隔授業・講座・講演などを実施しているが、追随してくれる人々が少なく、未だ一般化、普遍化できていない。他方、第二の課題として「福祉職員の慢性的不足」がある。ここでは、福祉労働全体に ついての言及は別の機会にするとして、社会福祉教育の側面から言及しておきたい。

特に日本には、福祉人材の養成・教育・訓練・研修及び任用というシステムに様々な課題と隘路がある。

1987 年「社会福祉士及び介護福祉士法」の制定により、名称独占とはいえ国家資格制度が定着したが、専門家としての資質があらためて根本的なところから問われている。これは養成・教育のあり方をきめるカリキュラム内容に大きな影響を受けることになるが、このところの福祉系の教育・養成機関では、資格取得を目指す学習が主流となった結果、マニュアル式の学習が中心をなし、福祉問題の本質に迫る学習がおろそかになる傾向が極めて高くなっている。また、実践力や即戦力を求めるための学習は裾野の狭い学習に終始し、専門家として必要な基礎的素養を涵養する体系的な学習よりも、すぐに役立つことを目指す実用主義教育に陥ることになりかねない。そのため「すぐに役立つ人材」は育っても長期的に見ていると、伸び悩みや尻すぼみになりかねない。やはり社会福祉教育も中長期を展望した教育として、学習のあり方を見直すべきであると考える。

「学び」は、その対象、視点、方式、手法など実践的研究方法論の基礎を教育の中でしっかり組み込むことが不可欠である。

このように社会福祉教育も事態が困難であればあるほど、原点に立ち返って教育のあり方を再吟味し、長期展望をもとに創意・工夫を凝らして社会福祉教育を立て直すべきであるといわなければならない。

監事 岡本民夫(京都生涯教育研究所理事長)

目次

  • 巻頭言
  • 第3回春季研究集会開催される 春季研究集会参加者の声
  • 授業改善をどう進めるか
  • 2012年度第3回理事会報告
  • 第9回大会のお知らせ
  • 新・事務局長より
  • 会員自主企画研究募集のお知らせ
  • 学会探訪⑥~日本福祉図書文献学会~
  • 会員の声 ~私の福祉教育~
  • ニュースメール配信のお知らせ
  • 投稿募集

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