日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.24

2015年4月1日発行

巻頭言

日本国憲法第12条、人権教育と社会福祉教育

憲法改正が話題になっているからというわけではなく、随分と前から気になっている憲法条文があります。第 12 条です。第 13 条の間違えではありません。

ところで、そもそも「憲法」というのは何かということから。日本弁護士連合会(日弁連)のホームページにある「憲法って、なんだろう?」から引用しますと「憲法は、国民の権利・自由を守るために、国がやってはいけないこと(またはやるべきこと)について国民が定めた決まり(最高法規)」となります。

というわけなので、憲法の第 3 章(第 10 条~第40 条で条数は各章中最大)では「国民の権利及び義務」というタイトルになっていますものの、実際に憲法上明記されている国民の「義務」は、よく知られている次の 3 つだけです。( )内は筆者。

第 26 条の2
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。(第 1 項は教育を受ける権利)
第 27 条の1
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。(第 2 項は労働条件法定規程、第 3 項は児童の酷使の禁止)
第 30 条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

では、ほとんど注目されることはありませんが、今日取り上げる憲法第 12 条を、第三章の冒頭の条文(13 条まで)とともに紹介しておきましょう。

第三章 国民の権利及び義務

第 10 条
日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第 11 条
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第 12 条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第 13 条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

法学の専門家でもない私ですが、脚注に触れた本学の法学担当教員の言うように、第 12 条から直接私たちの生活や権利に関わる事項が生まれたり、これ自体が政府や国家を規制する根拠となったりするとは、ちょっと思えません。でも他にも似たような内容があることをぼんやり知っていて、何か重要な事を言っているようにも思っていました。

先に触れたように、憲法は国民を規制するものではなく、為政者(君主や政府)を規制するものです。ですから憲法が国民に対して、これをやりなさい(これをやってはいけない)と規制することは、見たように 3 つの義務に限定されています。でも、この第12 条も、実は国民に対し憲法が保障する自由及び権利を不断の努力で「保持しなければならない」と要請しているわけで、国民の「努力義務」規程ではないかと私は思うのです。

気になるのは、他の条文での書き方が、基本的に「国民」は客体的な扱いで、権利を与えられるだけの存在のようになっているのに対し、第 12 条では国民に対して、主体者として自らの権利に関わることを期待している点です。さらに言えば、後半部分ではその権利の使い道について「責任をもて」とまで言っていると思います。こうした事柄について、法律的あるいは道徳的議論などを展開することもできると思いますが、今日は社会福祉教育との関連について考えます。また、「人権教育」との関連を考える人もいらっしゃると思います。重要だと思うのですが、少し違う視点について書きます。

この学会の会員の多くは社会福祉専門職や社会福祉士等の養成教育に関わっていると思います。社会福祉職が多くの国民・住民にとって人権擁護の専門職と捉えてもらえているかどうかは、ちょっと自信がありませんが、私としては、大いに期待しています。当然、学生たちの「人権感覚」などということも気になります。それは文字通り「不断の努力」の実践者となって欲しいからでもあります。

ただ、最近まで私はココまでで止まっていました。「不断の努力」の実践者として活躍できるようになるのは嬉しい…と、それ以上のことは考えてなかったのです。けれでも、彼ら・彼女らと関わる(社会福祉サービス)利用者やその関係者が、その生活や人権状況について、いつまでも「改善してもらう」だけの存在であるはずはないと思います。利用者が、単に生活や人生に対して自立・自律的となるだけで良いのかと、憲法第 12 条を見ていると感じてしまうのです。つまり、憲法 12 条が要請する「国民の不断の努力」の「国民」の中には、当然、社会福祉専門職のみならずそのサービスの利用者も含まれています。学生たちに人権擁護者(としての専門職)となる事を期待するだけではなく、専門職あるいは社会人として、利用者など出会った人の生活自立・自律を超えて、その人ら自身が主体的に、そして自らの人権についてのみではなく国民として「不断の努力」をしていかれるように支援する事を期待することが大切ではないか…と。

社会福祉教育は単に学生たちの就職や国試合格を支援するだけではなく、卒業後に出会った利用者等の生活改善を図ることができる…だけではなく、更に、その出会った人たち自身が自立・自律的に自らの人権を擁護できるように支援する…だけではなく、さらに更に、その利用者等が自らのみならず、一般的に人権を「不断の努力」によって保持、更には改善する主体者となることが大切だと思います。こうしたことが可能な人材を養成していくことが私たちの社会福祉教育には必要だと思います。学生たちが自らの、利用者等の、そして出会った人達自身が更に …という連鎖が生まれるような教育が必要だと。

理事(学会誌担当)杉山 克己(青森県立保健大学)

目次

  • 巻頭言
  • 第5回春季大会報告
  • 会員の声~私の福祉教育
  • 学会探訪⑬日本看護学教育学会
  • 理事会報告
  • お知らせ
  • 編集後記

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