日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.26

2015年12月1日発行

巻頭言に代えて~会長談話~

わが国の高等教育政策における人文・社会科学等をめぐる動向について ―今、再び社会福祉学教育における人文・社会科学系教育の意義を問う―

既に周知のことであるが、本年 6 月 8 日、文部科学大臣は全国立大学法人に対し、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」と題する通知を発出した。同通知が学界の物議を醸し出した所以は、「『ミッションの再定義』を踏まえた組織の見直し」のなかで、「教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18 歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」と指摘したことによる。この通知に対する学界の反応として、7 月 23日に日本学術会議は幹事会声明「これからの大学のあり方-特に教員養成・人文社会科学系のあり方-に関する議論に寄せて」を公表している。そこでは、同会議が本年 2 月 27 日に公表した「第 5 期科学技術基本計画のあり方に関する提言」を引用し、人文・社会科学について、「現在の人間と社会のあり方を相対化し批判的に省察する、人文・社会科学の独自の役割について注意する必要がある」とし、また「人文・社会科学には、独自の役割に加えて、自然科学との連携によってわが国と世界が抱える今日的課題解決に向かうという役割が託されている」とした上で、「教育における人文・社会科学の軽視は、大学教育全体を底の浅いものにしかねないことに注意しなければならない」と指摘している。

この件に係る社会福祉学界の反応に視点を転ずれば、9 月 10 日に〔一社〕日本社会福祉学会・〔一社〕日本社会福祉教育学校連盟・〔一社〕日本社会福祉士養成校協会・〔一社〕日本精神保健福祉士養成校協会の各会長連名による「共同声明 日本学術会議幹事会声明『これからの大学のあり方-特に教員養成・人文社会科学系のあり方-に関する議論に寄せて』を支持する」を公表している。また、9 月 30 日には社会事業史学会理事会も「日本学術会議幹事会声明『これからの大学のあり方-特に教員養成・人文社会科学系のあり方-に関する議論に寄せて』を支持する」を公表している。その中でも、「社会福祉の大学教育にとって、『今役にたつ』専門スキルだけでなく、人間と社会の深い洞察を養う人文社会科学の基礎教養、社会福祉政策・実践の歴史的理解が不可欠」との指摘や、「専門職養成は、バランスのとれた科学的で創造的な学問・学術および思考力によって支えられる」との指摘を看過すべきではない。

他方で、9 月 18 日には文部科学省高等教育局長が日本学術会議幹事会に出席し、「新時代を見据えた国立大学改革」と題する文書を配布・釈明するなど、事態の鎮静化に向け奔走している様子がうかがえた。同文書では、「特定の分野を軽視したり、すぐに役立つ実学のみを重視したりはしない」とし、通知による反響を否定した。これを受け、10 月 15 日に日本学術会議は幹事会共同声明「人文・社会科学のあり方に関する声明への賛同・支援の謝意と大学改革のための国民的合意形成に向けての提案」を公表している。そこでは、文部科学省の考えに一定の理解を示したものの、「通知の文言そのものからこのような趣旨を読み取ることは困難である。‐中略‐同省の真意を述べた文書等を国内外に示しつつ、引き続き丁寧に説明されるよう要望したい」と明記されていた。しかしながら、その後の現実は、10 月 20日時点で全国 86 国立大学のうち 26 大学において、 2016 年度以降に人文・社会科学系の学部の組織再編を計画していることが明らかになっている。以上が、これまでの経緯の概略である。先述の社会福祉学系諸団体による共同声明では、「社会福祉の大学教育は私立大学に多くゆだねられている。とはいえ、この通知は私立大学のあり方にも当然大きな影響を与えよう」と指摘されている。その指摘に鑑み、正統な社会福祉学教育を堅持するためには、この問題に対し一定の立場を明示することが社会福祉学研究に携わる者としての真摯な態度となろう。

翻って、社会福祉学教育における人文・社会科学教育の意義とは何であろうか。洋の内外を問わず、これまで社会福祉学教育は一貫して人文・社会科学を重視してきた歴史がある。戦前の教育内容を含む詳細な指摘は他稿 に譲るが、ここでは戦後初の社会福祉学教育に係る外形的基準となった 1947 年の大学基準協会による「社会事業学部設立基準に関する決定事項」の中から「施行上の注意」を一瞥する。そこでは、「社会事業家にとっては、一般的教養と透徹した洞察とが同時に不可欠な要素となる。したが って特に社会事業学部においては、専門教育と相並んで一般的教養科目を重視しなければならない」と指摘されている。また、国際連合は、1947 年の経済・社会理事会に対する専門委員会勧告にもとづき、 1950 年に第 1 回の社会福祉教育に係る国際調査を実施している。同調査報告書では、「ソーシャルワーカーは人間にかんする一般的知識と同時に、かれがそのなかで生活している政治的、文化的、社会的、経済的諸制度にかんする一般的知識‐中略‐社会学、心理学、およびそれの関連課目を教育するか、または入学前にそれらの課目を履修していることを条件としている」と報告されている点からも明白である。

直近の動向を一瞥すれば、2014 年に IASSW/IFSW により採択された「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」では、ソーシャルワークの理論とともに「社会科学、人文学」等を基盤となる知として明示するのみならず、その注釈では心理学、社会学、教育学、行政学、経済学等が列挙されている。また、本年 6 月に日本学術会議(社会学委員会 社会福祉学分野の参照基準検討分科会)により公表された「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 社会福祉学分野」では、市民性の涵養と福祉マインドとの関連に言及しつつ、「個人と社会をめぐる様々な学問の基礎が幅広く修得されなければならない」とし、人文・社会科学系諸領域について列挙されている。このことは、社会福祉学教育における人文・社会科学系教育の意義が、技芸に対する学芸としての教養教育( Liberal Education)やリテラシーやコンピテンシーとしての一般教育(General Education)の域を超え、専門基礎教育として学問の裾野を広げ、より強固な土台を形成するものであることを意味するといえよう。かつて、佐伯啓思は『学問の力』のなかで、いわゆる専門と教養の問題を論じるにあたり、「故郷をも った知識」「学問にはどうしても故郷が必要」であると指摘している。

さて、日本学術会議における持続可能な発展を前提とする新たな学術の体系を志向する議論では、伝統的な学問観としての science for science(知の営みとしての科学=あるものの探求⇒認識科学)に加え、science for society(社会のための科学=あるべきものの探求⇒設計科学)を認識評価する意識改革の必要性が提起されている。殊に、一定の目的志向性・価値志向性を有する社会福祉学及びその教育に係る研究にあっては、文理融合を前提とすることの自明性を確認しておく必要がある。とりわけ、社会福祉学の故郷が、人文・社会科学に由来することを忘却の彼方に追いやってはならないのである。かつて、吉田久一は、20 世紀の社会福祉理論の反省として、「社会福祉理念の支えである社会福祉教育の独立性が乏しい。カリキュラムの編成も理論的基礎を欠いて、時流に流されがちで、特に教育と行政の混濁化があった」と指摘された。多くの先学の学恩を受け、正統な 21 世紀の社会福祉学・社会福祉学教育を引き継ぐ我々は、この警鐘を断じて忘れてはならない。

会長 志水 幸(北海道医療大学)

目次

  • 巻頭言に代えて~会長談話~
  • 第11回大会報告
  • アジア太平洋ソーシャルワーク会議(APASWE)2015報告
  • 会員の声~私の福祉教育~
  • 学会探訪⑮日本自殺予防学会
  • 2015年度総会報告
  • お知らせ
  • 編集後記

PDFダウンロード

日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.26[1.23MB]

お問い合わせ 入会のご案内

日本社会福祉教育学会事務局

東北公益文科大学 小関研究室
〒998-8580 山形県酒田市飯森山3-5-1
TEL:0234-41-1288
FAX:0234-41-1192

ページトップへ