日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.38

巻頭言

ジェネリックとスペシフィックの関係:ソーシャルワーク教育の危機

白澤 政和(国際医療福祉大学大学院)

日本では近年悲惨な子ども虐待が急増し、2020年であれば、40名(出産直後の殺害を含む)の幼い命が虐待で奪われている。こうしたことから、児童相談所の児童福祉司に対する批判が強く、一部の国会議員は子ども家庭福祉領域の国家資格創設を強く主張している。これについては、ソーシャルワークの職能団体と養成団体が社会福祉士や精神保健福祉士に上乗せをする認定資格とすべきとし、現任者の養成教育を認定資格で始める方向で今回は法制化が進んでいる。ただ、大学等での子ども家庭領域のソーシャルワーカーをどのように養成するかについては今後の議論を経て、4年後に制度化し、実施することになっている。

この議論の中に、日本のソーシャルワークにおけるジュネリックとスペシフィックの根本的な課題に対して、ソーシャルワークの関係者で至急コンセンサスをとっていくことが必要不可欠となってきている。

日本では国家資格を核にしてソーシャルワークの専門性を確立してきた。社会福祉士国家資格が1987年に創設され、医療領域や精神科領域でのソーシャルワークの国会資格化議論を経て、1997年に精神科領域での精神科保健福祉士国家資格が成立した。国家資格創設の背景には、精神科病院での入院患者の人権を守り、社会的入院患者の地域生活を取り戻していくソーシャルワークが必要不可欠であったが、当時の社会福祉士という資格では診療報酬が算定できなかったことが大きい。精神科領域でのソーシャルワークにとっては背に腹に変えられない時代状況があり、精神科患者の人権擁護と精神科ソーシャルワークの発展には、当時として国家資格は不可欠な選択肢であったといえる。ところが、現在では、医療と福祉の連携が進展するなかで、社会福祉士にも診療報酬が付くようになり、精神保健福祉士は国家資格でなくても、社会福祉士の上乗せの認定資格でも十分業務が遂行できる状況にあると認識している。ただ、誤解を招かないため、現状の精神保健福祉士国家資格が不要であるとは全く考えていないことを付け加えておく。精神保健福祉士は精神病院中心からコミュニティを基盤に展開し、精神障害者の人権を守るべく社会的入院の解消に大きく貢献し、現在は広くメンタルヘルス領域のソーシャルワーカーとして不可欠な人材であり、国家資格としてさらなる発展を期待している。

ただし、精神保健福祉士国家資格の創設の根拠とした、社会福祉士がカバーしていない領域での新しい国家資格として位置づけられたことについては、再検討されるべきである。ジェネリックとスペシフィックのソーシャルワーカー人材養成を考えると、社会福祉士をジュネラリスト資格として位置づけ、精神保健福祉士は社会福祉士に対するスペシフックな上乗せ資格として位置づけるべきであると認識している。現状の多くの大学での養成教育をみると、社会福祉士と精神保健福祉士養成の関係は上乗せの発想で、実習を含めて教育を行っている。

その意味では、今回のこども家庭福祉領域のソーシャルワークの国家資格を主張する人々は、社会福祉士や精神保健福祉士の国家資格の横並びに、新たな子ども家庭福祉領域での国家資格創設を求めるものであった。これに対して、社会福祉士や精神保健福祉士の養成団体も職能団体は国家資格に反対し、社会福祉士や精神保健福祉士に上乗せする認定資格を対案として作成し、ソーシャルアクションを展開した。この背景には、社会福祉士の養成でジュネラリストを養成し、子ども家庭領域はスペシフィックなソーシャルワーカー養成であるという認識が根本にある。

このことは、現状の社会福祉士と精神保健福祉士と関係についても、ジェネリックとスペシフィックで整理することが求められ、4年先に始まるであろう子ども家庭福祉ソーヤルワーカーの資格議論を推し進めていくうえで、まずは、社会福祉士と精神保健福祉士の関係をクリアしておく必要がある。そのことを踏まえて、もちろん精神保健福祉士国家資格を堅持しながら、今後は両者のカリキュラムについての議論につなげていく必要がある。

同時に、ジュネリックとスペシックなソーシャルワーカー養成を検討するに当たって、子ども家庭や精神保健福祉の領域だけでなく、医療や高齢者等の領域でのスペシフィックな認定資格や、他方、虐待、アドボカシー、権利擁護等の課題別の認定制度を、教育レベルでは学部だけでなく大学院レベルと現任者レベルでの教育体系を再構築していく必要がある。これには、勿論、現行の認定社会福祉士制度も含めて、社会のニーズに応えるべくソーシャルワーカーの質向上に向け、養成団体と職能団体が一体になり、今後のソーシャルワーカー養成の青写真を作っていく必要がある。

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