日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.38

福祉実践報告

ソーシャルワーク演習研究会

東京福祉大学 北爪 克洋

2007(平成19)年の「社会福祉士法及び介護福祉士法」改正、また2021(令和3)年度入学生を対象とした社会福祉士・精神保健福祉士養成における新カリキュラムの実施により、ソーシャルワーク演習は体系化が図られ、その基盤形成が為されてきました。

一方、変動する社会状況において様々な背景の学生が増え、学習ニーズも多様化・複雑化しています。そのような状況において、期待されるような凝集性の高い演習クラスの形成が困難であったり、演習課題に消極的な学生や個別の配慮が必要な学生も増えています。加えて、2007年の法改正後、初めて演習教育に携わる教員も増えており、一人で悩みを抱え込み、演習教育の実施方法に戸惑っている方も多いのではないかと考えます。

そのよう状況から、ソーシャルワーク演習担当教員の力量を高め、多様な学生に伝わる教授法を考える機会と教員相互のピアグループとしての役割を果たすべく、また現在の教育課題に向き合い教員同士で検討し、新たな教育方法を開発することを目的として「ソーシャルワーク演習研究会」を実施しております。具体的な取り組みとしては、①模擬演習の実施と講評(テーマに沿った演習教材の開発も含む)、②各自の演習・実習教育に関する課題意識の共有と検討について、大学・短大・養成校の教員・現場実践者が互いの立場から活発に意見交換を行います。

ソーシャルワーク演習研究会は、2012年度に当時の呼びかけ人の先生方(保正友子先生、西川ハンナ先生)によって開始されました。現在は、庄司妃佐先生(和洋女子大学)、田嶋英行先生(文京学院大学)、前廣美保先生(武蔵野大学)、西川ハンナ先生(創価大学)、北爪(東京福祉大学)が呼びかけ人を引き継ぎ、ソーシャルワーク教育学校連盟関東甲信越ブロック演習教育部会の一環として活動しております。2018(平成30)年度には、演習研究会の成果として、『学生・教員・実践者のためのソーシャルワーク演習』(ミネルヴァ書房)を刊行いたしました。

ソーシャルワーカー養成における演習教育の重要性と醍醐味を共に感じながら、学生も教員もいきいきと取り組める演習実施を目指し研鑽を重ねていきませんか。関心のある方は下記まで参加意思をお伝えください。なお、2022年度の実施日程等につきましては次の通りです(現段階で内容「調整中」となっているものにつきまして、参加予定者へは確定内容を随時お知らせいたします)。

 日時場所模擬演習(担当者)※敬称略話題提供(担当者)※敬称略
12022/4/23(土) 13:30~17:30和洋女子大学 ※Zoomを用いたハイフレックス可児童虐待防止法~オレンジリボン運動を活かしたソーシャルアクション(西川ハンナ)ソーシャルワーク演習研究会「すぐに使える!ソーシャルワーク実習」(北爪克洋)
22022/6/18(土) 13:30~17:30未定 ※Zoomを用いたハイフレックス可調整中調整中
32022/8/19(金) 13:30~17:30未定 ※Zoomを用いたハイフレックス可「倫理的ディレンマ」(庄司妃佐)VR等を用いた演習・実習指導の検討 (田嶋英行)
42022/10/22(土) 13:30~17:30未定 ※Zoomを用いたハイフレックス可調整中調整中
52022/12/24(土) 13:30~17:30未定 ※Zoomを用いたハイフレックス可「地域福祉実践演習」(土田将之)調整中
62023/2/25(土) 13:30~17:30未定 ※Zoomを用いたハイフレックス可「引きこもりへの支援」(山田克宏)「情報交換・ソーシャルワーク演習の展開に効果的な視聴覚教材」(参加者相互)

【2022年度予定】

※参加できる方は、大学・短大・養成校等でソーシャルワーク演習を担当している人(常勤・非常勤問わず)、もしくはこれから担当する予定の人等で、参加者相互に演習方法を学びあうことに熱意がある人。
※参加費は無料、部分参加も歓迎です。
※東京福祉大学 北爪克洋(kakitadu@ed.tokyo-fukushi.ac.jp) 宛に参加意思をお伝えください。ご連絡いたします。

[連載コラム] ソーシャルワークとリサーチ あれやこれや

京都大学大学院教育学研究科 安藤 幸

① はじめに

私はアメリカでソーシャルワーク教育を受け、学位取得後には大学教員としてソーシャルワークの教育と研究に携わりました。特に、当時の勤務校ではソーシャルワーク学部(Bachelor of Social Work)及び修士課程(Master of Social Work)カリキュラムの必須科目であるリサーチ科目のリード・ファカルティ(責任教員)として、全米ソーシャルワーク教育評議会(Council on Social Work Education)が定める認証評価基準に沿った科目設計と実施の監督を務めました。すでに過去の話です。そして現在、日本では社会福祉やソーシャルワーク教育に関わっていないため、現場を全く理解していません。そんな私がいろいろと発言するのはおこがましいことは肝に銘じています。しかしあえてニューズレター委員という話題提供ができる立場から、ソーシャルワークにおけるリサーチやデータ、エビデンスについて考えるきっかけとしての連載を始めたいと思います。

現所属で卒論や修論審査に関わることが多くなり、提出される論文の傾向が見えてきました。認知心理学や社会学などの分野はともかくとして、比較教育学・教育行政学・臨床心理学の分野でも定量的調査を行おうとし、統計学的に有意な結果を求めて奔走する学生が年々増えています。しかし今はコロナ禍。充分なデータ収集ができず、サンプル数が充分ではないにも関わらず、無理な統計処理が行われていることもしばしばあります。そこから導かれた結論を、私たちはどれほどの自信を持って受け止めればよいのでしょうか。

Maynardら(2014)によれば、1998年から2008年の10年間にアメリカのソーシャルワークの大学院に提出された博士論文から無作為抽出した593編のうち約6割が定量的方法を用いた研究でした。ちなみに、定性的研究は22%、混合研究は14%です。この結果を見ても私は驚きませんでした。私が博士課程に進学したのは2005年で、先輩や教員はみな「定量研究にしなさい」「定量研究じゃないと論文が通らないよ」「定量研究こそが科学だ」「もっと高度な統計法を習得しなければ」と口を揃えて言っていたからです。それが影響してか、2010年までに博士学位を取得した私と同級生5人は全員、定量的研究をもとに博士論文を仕上げたのでした。

2010年 同級生と卒業を喜ぶ筆者(左)

定量的研究そのものを批判しているわけではありません。しかし、数値のみに頼る評価への偏重には、私も疑問を抱き始めています。Nature誌に掲載された論文で、「有意差がない場合、“差がない”あるいは“関係がない”といった結論をしてはいけない」と科学者800人超が連名で警鐘を鳴らしました(Amrheinら 2019)。ソーシャルワーカーもまた数字のみに惑わされることなく、社会公正や人権擁護の意識を持って、実践に基づく研究または実践につながる研究を行うことが大切ではないでしょうか。

連載にあたっては、毎回私が提案させていただく話題に対して、会員の先生からコメントや質問をいただき、さらにそこから話し合いをしていくような「対話の場」づくりをしたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

参考文献

Amrhein, V., Greenland, S., & McShane, B. (2019, March 20). Scientists rise up against statistical significance. Nature, 567, 305-307.
https://media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-019-00857-9/d41586-019-00857-9.pdf

Maynard, B. R., Vaughn, M. G., & Sarteschi, C. M. (2014). The empirical status of social work dissertation research: Characteristics, trends and implications for the field. British Journal of Social Work, 44, 267-289. DOI: 10.1093/bjsw/bcs123

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