日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.39

第12回春季研究集会報告

 去る2022年3月5日(土)、テーマを「新・社会福祉士養成カリキュラムにおける240時間実習のあり方」として、オンラインにて開催されました。

 社会福祉士が国家資格化されてから約30年。その間には、2度のカリキュラム改変が行われ、2021年度入学生より第3期のカリキュラム制定となりました。

 昨年度より、各養成校において新カリキュラムの導入が行われております。新カリキュラムを進めていく中での大きなポイントとしては、240時間以上の実習(2か所で行う)です。

 そこで今回は、実習指導者・教員といった各々の立場から、各養成校の裁量によって異なる240時間実習のあり方を考える場となりました。 お忙しい中、ご参加くださった皆様には厚く御礼申し上げます。

【大会プログラム】

13:00開会
13:05~13:35基調講演
「新・社会福祉士養成カリキュラムの全体像及び240時間実習の概要について」
講師:添田 正揮(日本福祉大学)
13:34~14:55シンポジウム
シンポジスト
廣野 俊輔(同志社大学 養成校① 1回生と3回生で実施)
髙橋 味央(関西学院大学 養成校⓶ 3回生で40時間と200時間で実施)
藤田 益信(神戸医療福祉大学 養成校③ 短期の実習を3回生後半、4回生で実施)
津田 克己(児童家庭支援センターしらゆり・児童養護施設グイン・ホーム実習指導者)
〇コメンテーター
添田 正輝(日本福祉大学)
〇コーディネーター
川島 惠美(関西学院大学)
14:55~15:05休憩
15:05~15:30コメント、質疑、まとめ

□■□参加者の声から□■□

実習指導者の立場からの感想

小渡 加依(特別養護老人ホームせんだんの館)

 私は宮城県仙台市内の特別養護老人ホームで生活相談員として勤務しています。コロナ禍の影響で2020年度の実習生は0名、2021年度はハイブリット実習を試みました。私個人の感情論的には「試行錯誤しながら実習できた。やった!」という達成感ののち、冷静に実習評価ガイドラインの達成水準を分析するとコロナ禍前の2~3割程度だったと評価しています。それらの要因にはWi-Fi環境や音声問題の他、講話や資料閲覧の時間が多く、利用者と関わり体験から学べる機会が限られていたこと。ハイブリット実習経験が浅く効果的な実習スーパービジョンが行えなかったこと。実習生・実習担当教員・実習指導者の3者間で十分な事前打ち合わせを持たずに実習スタートしてしまったこと等の反省点が挙げられます。実習成果は2~3割と評しましたが出会った実習生からは成長の可能性を大いに感じました。実習生の成長を促すためにもいかに体系的な実習プログラムと指導体制、3者間の合意が重要なのかを再確認できた1年でした。

基調講演を行う
 添田 正揮先生 (日本福祉大学)

 第12回春季研究集会への参加理由は上記の反省を踏まえて240時間実習の動向を知り、今できる準備事項を知りたかったためです。添田先生の基調講演では240時間実習の概要をご説明いただき全体像を認識できました。「教育に含むべき事項10項目」と「実習教育内容・実習評価ガイドライン」の項目を自らの日常業務と関連づけした実習プログラムの検討が必須だと理解しました。シンポジウムでは養成校毎の教育運営方針に基づきカリキュラム編成の複雑さ、教員体制など様々な事情から養成校毎にここまで異なるのか!と驚きました。今後、養成校の先生方には2ケ所以上の実習機関を仲介・調整していただく機能をお願いすることになります。実習生・実習担当教員・実習指導者(2ケ所)の3~4者間のチームを組むことで、1ケ所目と2ケ所目の実習体験から実習生自身がソーシャルワーク機能や専門性の根幹を理解してより高度な実践力を兼ね備えた専門職を養成することが期待されています。添田先生からクライエントの権利擁護を考えた時に必要な知識がない状態で実習教育をさせることは適切ではないとご教示をいただき、この点からも実習チーム間で実習生の成長過程を共有できるツールとしてコンピテンス(シート)の活用は大変有効だと思います。実習指導者である津田様の実践報告をいただけたことは大変有難かったです。組織内の理解を得るための準備やプレゼンテーション、実習プログラムを養成校と相談して協働することの必要性を提示していただき、これまで不明慮だった準備事項を具体的に考えることができました。240時間実習の準備で余裕がない中でも昨年度の反省を活かし、実習の主役である実習生本人の成長をサポートし共に成長できるよう努めたいと思います。発表者の皆様には貴重な報告をいただき誠にありがとうございました。

第12回春季研究集会シンポジウムに参加して

仁志田訓司(広島県社会福祉協議会)

 3月5日(土)に開催された第12回研究集会「新・社会福祉士養成カリキュラムにおける240時間実習のあり方について」に参加させていただいた。2つの問題意識を持って参加した。1つは、新たに実習施設として加えられた都道府県社協という中間支援組織において、いかなる実習が可能なのかを考えるためである。2つは、地域共生社会の実現に向けたソーシャルワーク専門職の養成について、現場の実情から実習教育において留意すべき点があるのではないか、と考えたためである。

コーディネーター
 川島惠美会員 (関西学院大学)

 4つの報告から、実習教育における「個別支援とメゾ・マクロの連関」「実習先における学びの接続」「養成校、施設、実習生の三者連携」といった課題が見出された。「個別支援とメゾ・マクロの連関」では、実習においては、個別支援を前提としつつも、メゾ・マクロ実践への展開がどの程度可能なのかを検討する必要がある。「学びの接続」については、実習期間・領域の異なる2か所以上の実習先での学び(実習内容)をどのようにデザインし、つなげられるかが実習効果に影響を与える。「三者連携」については、目標志向型のアウトカムを前提とした三者間での実習プログラムの目標設定と共有化が、これまで以上に丁寧に求められる、ということであった。

 これらの報告を踏まえ、中間支援組織である県社協の場合、マクロ実践における短期的な実習が可能なのではないかと考えた。県社協では、権利擁護、地域支援、第三者評価、地域公益活動など、個別支援を支える分野横断的なマクロ実践と担い手支援を行っている。個別実践を下支えする地域福祉の全体像を把握するという意味では、一定の役割を果たせるのではないかとの示唆を得ることができた。

シンポジスト
 廣野俊輔先生 (同志社大学)

 2つめの問題意識については、本大会では触れられなかった。しかしながら、地域共生社会の実現という方向性の中で、ソーシャルワークが行政施策の推進の手段として代替され、ワーカー自身が葛藤を抱えている実態が現場において散見される。この点は、ソーシャルワークの価値に関わる部分であり、新たな実習教育のあり方とともに引き続き考えていきたい。ただ、一点のみ付言すれば、添田先生から「長く脈々と営まれてきた現場実践が国家資格の養成教育の中で矮小化されることのないよう、教育の創意工夫と説明責任が求められる」との指摘は、2つめの問題意識に通底する課題と受けとめた。

第12回春季研究集会に参加して

山口 真里(広島国際大学)

シンポジスト
 髙橋味央先生 (関西学院大学)

 第12回春期研究集会は、「新・社会福祉士養成カリキュラムにおける240時間実習のあり方」というテーマで開催された。添田正揮先生の基調講演「新・社会福祉士養成カリキュラムの全体像及び240時間実習の概要について」では、改正の背景や変更点の概要を改めて確認することができた。特に新カリキュラムでは、ジェネラリストとして実践できる人材を養成していくこと、実践的にソーシャルワーク機能を全般的に発揮していくことを学べるように意識することを強調していることを理解した。

シンポジスト
 藤田益伸先生 (神戸医療福祉大学)

 またシンポジウムでは、2021年度入学生からスタートした新カリキュラムでの実習教育体制や準備等の具体的な お話を拝聴でき、実習担当教員として非常に学びの多い時間となった。まず同志社大学の廣野俊輔先生は、ご担当されている新カリキュラムでの実習が進行中であると話されていた。「とにかくやってみよう」の姿勢でスタートした実習教育体制やその具体的内容、現状や課題、1年次から実習をスタートさせた大学側の意図や背景などが語られた。関西学院大学の高橋味央先生からは、3年次で週1回の分散型の40時間実習と夏季休暇中の集中型の200時間実習の2回に分けた実習体制の準備を進めているというご報告があった。次に神戸医療福祉大学の藤田益伸先生は、大学の予算の制限や授業体制、担当教員の担当科目数が多く負担が大きいなかでの学修支援体制の整備の工夫や課題について具体的にお話くださった。一方で、児童家庭支援センターしらゆり・児童養護施設グイン・ホームの実習指導者である津田克己さんからは、実習受け入れ側としての課題について言及されていた。なかには、実習プログラムを作成していくうえで必要な実習施設のチーム体制や、メゾやマクロレベルでの内容をふまえ、学生が広い視点を持てるようなプログラムの工夫などが課題となっているとの報告があった。

 ご登壇された方々のお話には、昨今の学生の傾向や実習担当教員としてのご苦労に激しく共感するとともに、個々の大学の事情に合わせた工夫が重要であることを再認識した。さらに大学のある地域や実習施設機関、他実習担当教員との連携も必要不可欠であることも理解できた。新カリキュラムの実習については、どの社会福祉士養成校にとっても喫緊の課題であり、他校の実践例や実習受け入れをしてくださる実習施設機関のご意見を拝聴できる機会は貴重な時間であった。

 最後に、このような意義のある大会の準備と運営をしてくださった学会関係者の皆さまに厚くお礼を申し上げたい。

第12回春季研究集会に参加して

大石剛史(国際医療福祉大学)

 日本社会福祉教育学会第12回春季研究集会に参加させていただいた。新カリキュラムにおける教育及び実習内容をオンタイムで検討している立場として、時宜を得た研究集会であった。

 まず日本福祉大学の添田正揮先生の基調講演では、改めて新カリキュラムの意図と教育内容に盛り込むべき内容を確認することが出来た。特に添田氏の「国家資格養成教育として教育内容の水準が重要」という話が印象に残った。専門職を養成する立場として身が引き締まる思いがした。それと関連して教育内容の達成度評価が重要であり、ルーブリックの活用などが示されたが、自分が所属する養成機関でも今後そのような評価方法を早急に検討する必要性を感じた。

シンポジスト
 津田克己先生(児童家庭支援センターしらゆり・児童養護施設グイン・ホーム)

 その後の各養成機関、実習先の登壇者の方からの現時点での新カリキュラムへの対応状況についての話は、現状とその具体的な課題の話を聞くことが出来、大変参考になる内容であった。

 特に新カリキュラムでは2か所での実習の組み合わせと、2か所での実習での学びを途切れさせることなく連結させる実習マネジメントが重要になる。地域共生社会の枠組みの中で、分野横断的に、ミクロからマクロ領域までの実践を展開できるソーシャルワーカーを養成するためには、実習内容の工夫と綿密な実習プログラミングに基づいた効果的な実習を行う必要があることを、それぞれの登壇者の発表から学ぶことが出来た。また各養成機関においては、240時間の実習の組み合わせや実施時期がそれぞれ異なっていたが、それぞれの手法のメリットやデメリットについても有益な情報を得ることが出来た。

 私の所属する養成機関では、2年次の年度末に60時間実習、3年次の夏休みに180時間実習という組み合わせでの実習を検討している。60時間実習の位置づけは、対象者理解と基本的なコミュニケーションおよび援助技術の習得、そしてソーシャルワーク実践の全体像を把握することが目的と考えている。その後180時間実習でソーシャルワーク実践の包括的なプロセスを学ぶことを意図しているが、各登壇者の話を聞き、学生、実習受け入れ施設・機関、養成機関3者での実習目標(コンピテンシー)や実習プログラミングの確認、2か所実習での一貫した実習スーパービジョンの体制づくりが、旧カリキュラムの実習指導に比べ格段に重要であることがわかった。

 新カリキュラムで示されたソーシャルワーカー養成の意図を汲み、出来得る限り万全な教育体制を整えて実習指導に望みたいと考えている。

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