日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.40

巻頭言

合宿研修の受難

川島 惠美(関西学院大学)

 筆者の本務校では、社会福祉学科生の初年次教育の一環として、1泊2日の合宿、実習先の見学実習、学生が居住する地域のタウンウォッチングという3本の体験学習を柱とした授業を実施している。本学は、普段学生が通学しているキャンパスとは異なる場所にキャンプ場を持っており、このキャンプ場を使った合宿研修は、20年以上、福祉教育の一部として、ごく当たり前に行われてきた。特に、現在、初年次教育として学科生のほとんどが参加する合宿は、スタッフとして、教員のみならず、実習助手、2回生以上の合宿経験者がラーニングアシスタントという位置づけで1回生たちの学びをサポートする手厚い体制がとられている。日常の場から離れて、仲間や先輩と寝起きを共にし、同じ釜の飯を食べ、集中的なワークを行うという経験を通して、社会福祉を学ぶ学生としての意識付け、今後の実践教育履修やキャリアプランに向けたイメージづくり、自分自身の人間関係のあり方など、普段の教室での授業では学びきれない 多くのことを、体験を通して学ぶ機会となっている。

 しかしながら、この3年間、合宿を行うことが叶わない状況となっている。2019年度は、合宿を予定していた週末に台風が襲来したためであり、2020年度と21年度は、いうまでもなくコロナ禍の影響である。合宿の代替案として、学内で、日帰りのデイキャンプという形で、合宿で行う内容を実施することになったが、コロナ禍の2年間については、三蜜を避けるために、週末の2日間を午前、午後と4つのグループに分けて3時間という短い時間でワークを実施することになった。当然ながら、これまでのような、丸二日間の合宿と比べた時、こうした代替案によるプログラムでは、時間的、物理的、内容的な物足りなさというか、不全感のようなものを感じざるを得なかった。加えて言うと、見学実習もリモートにならざるを得ず、学生は全員教室にいるわけで、これは「見学実習」と言えるのかと思った。

 大学の授業とは異なるが、筆者は、これまでに、人間関係トレーニングという文脈で培われてきたラボラトリートレーニング、その中でも、Tグループと呼ばれる集中的グループトレーニングの実施にも関わってきた。Tグループも1930年代に人種差別を無くすためのソーシャルワーカーのトレーニングから出発し、日本でも60年ほど前から実施されてきた歴史を持つ。この研修は、日常生活の場から離れた「文化的孤島」と言える快適な環境の中で、3泊から5泊程度の宿泊研修として実施されてきた。そして、これらの研修も、コロナ禍の影響により、他者との宿泊、また小グループで部屋の中で対話を行う形態での実施方法が中心となり、感染の恐れがあるということで、開催を中止せざるを得ない状況が生じた。けれども、何とかTグループを行うことができないものかと、いろいろ考え、例えば、宿泊ではなく、「通い」でトレーニングを行ったり、オンラインでの実施を試みた団体もあった。しかしながら、いずれの場合も、何ともいえない違和感、いわゆる隔靴掻痒感は否めないものがあった。

 先日、日本ラボラトリー・トレーナーの会という、Tグループのトレーナーが集まる研究会が、これも2年ぶりに開催されたのだが、その時に、改めて「Tグループのミニマムスタンダードとは何か」ということについて話し合う機会が持たれた。つまり、コロナ禍などによる限界があっても、TグループがTグループとして成立するために絶対に欠かせない条件とは何かということである。詳細は省かせていただくが、結果的に、人間関係の学びのためには「対面」であること、「日常から距離をおくこと」は必須であり、「通い」や「オンライン」という形態でのトレーニングは本来のTグループではなく、あくまで代替であって、本来のTグループができないならば、できるようになるまで「準備をして」「待つ」ことも必要なのではないかという考え方が示された。無理をせず、本来的にあるべきことを見失ってはいけないという考え方が腑に落ちた。

 さて、今年度の合宿であるが、キャンプ場ではまだ宿泊は禁止となっている。けれども日帰り利用は可能になったため、1日目はキャンプ場で、2日目は学内でのデイキャンプを行う予定で準備を進めている。来年度は、コロナ禍も落ち着いて、元通り全員揃って1泊2日の合宿ができるようになることを祈りつつ。

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