日本社会福祉教育学会 第18回大会報告
去る2022年8月20・21日(土・日)、テーマを「「地元学」と社会福祉教育~社会福祉教育は「地域づくりに向けた支援」にどう向き合うのか~」として、オンラインにて開催されました。
2021年度入学生より第3期のカリキュラム制定となり、各養成校において新カリキュラムの導入が行われております。新カリキュラムを進めていく中、「地域共生社会」の実現に資するソーシャルワーカー養成を目指した科目の新設が行われ、ソーシャルワーカーが「地域づくりに向けた支援」を行う実践力を身につける必要もあります。
そこで本大会では、地元に学び、地元と活動する「地元学」に着目しました。どのようにエッセンスを取り入れ、未来の社会福祉士・精神保健福祉士を養成していくのか、議論を通じて考える場となりました。
お忙しい中、ご参加くださった皆様には厚く御礼申し上げます。
【大会プログラム】
◆2022年8月20日(土)
12:00~13:00 | 受付 |
13:00~13:15 | 開会式 |
13:15~14:15 | 基調講演 「“人と地域を創る”課題先進地新見での社会福祉教育」 講師:公文 裕巳(公立大学法人新見公立大学 学長 公文裕巳) |
14:15~16:15 | 開催校企画シンポジウム 「社会福祉教育が地域づくりに向けた支援にどう向き合うのか~地域の様々なアクターとの共創による社会福祉教育実践」 シンポジスト 渡辺 裕一(武蔵野大学) 山本 浩史(公立大学法人新見公立大学) 岡 勇樹(NPO法人 ubdobe) 五嶋 仁(社会福祉法人 大樹会) 〇コーディネーター 高杉 公人(公立大学法人新見公立大学) |
◆2022年8月21日(日)
10:00~12:00 | 学会企画シンポジウム 日本ソーシャルワーク教育学校連盟中国四国ブロック共催 「地域共生社会の実現に資するソーシャルワーカーを育成する実習のあり方~メゾ・マクロレベルのソーシャルワーク実践を実習プログラムにどう盛り込むのか~」 シンポジスト 西川 ハンナ(創価大学) 中尾 竜二(川崎医療福祉大学) 白石 順也(今治市社会福祉協議会) 丸山 秀幸(社会医療法人ペガサス 馬場記念病院) コーディネーター 中谷 陽明(桜美林大学) |
12:20~13:00 | 日本社会福祉教育学会総会 |
13:00~15:00 | 自由研究報告 |
15:00~15:15 | 閉会式 |
□■□参加者の声から□■□
基調講演に参加して
竹中 麻由美先生(川崎医療福祉大学)
基調講演は、公立大学法人新見公立大学学長公文裕巳氏による「“人と地域を創る”課題先進地新見での社会福祉教育」であった。第18回大会のサブテーマである「社会福祉教育は「地域づくりに向けた支援」にどう向き合うのか~」について、一つの示唆を示す内容だった。
“県北”と称される新見地域は岡山県の北西部に位置し、北は鳥取県、西は広島県に接している。鉄道の結節点として繁栄した歴史があることは講演でも紹介されていたが、県を南北につなぐJRは限られている。主な移動手段は車となるが、高速道路は文字通り“高速”で走行可能。駐車場所に困らない環境は、まさに車生活を支えていると感じる。同時に、車の運転が困難な人びとのアクセス手段確保が課題であることは、県南で生活する筆者でも痛感する。ちなみに有名な千屋牛は、岡山県民でも、おいそれとは口にできない高級和牛である。
基調講演では、人口27,557人、高齢化率42.6%の典型的中山間地域である課題先進地で、地域共生社会を実現していくために、「健やかな子どもの発達、こころの豊かさの向上、高齢者の健康寿命の延伸」という指標を掲げた健康科学部の取組みが紹介された。地域共生社会の実現に資する人材を育成するために新見市全域をキャンパスとした多職種連携の実践的学修を展開し、大学を含む新見市全体が持続可能となる未来を構築している。具体的取り組み事例として、地域福祉学科で開講されている。地域の交流から地域課題解決を目指す「共生社会実践演習」については、シンポジウムで山本浩史氏から報告された。報告からは、地元住民の協力、学生の努力、そして教員の労力が必要不可欠であることが伝わってきた。誰かが“やらされている”と感じたら、こうした試みは頓挫してしまう。「すべては地域・住民のために」という大学の方向性が明確に示された上にこそ、地域に根ざした教育が実現する。
令和2年に文部科学省から示された「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン~地域に支持される高等教育へ~」でも指摘されている通り、大学には「知と人材の集積拠点」として、地域連携プラットフォーム構築へ組織的に対応することが求められる。学生の教育や社会人の学び直しを地域でどのように展開していくか、大学が地域の社会資源であり、学生・教職員は地域住民の一人であると認識で行動していくことが必要である。ソーシャルワークは、人びとの環境としての地域に着目し発展してきた。今後、“日本型“地域を基盤とした社会福祉教育を構築していくために、本学会をより一層活用しつつ取り組んでいきたい。
2022年度 日本社会福祉教育学会 第18回大会(オンライン)に参加して
越石 全(日本医療大学)
業務の都合上、8月20日(土)に開催された、「基調講演」「開催校企画シンポジウム」までの参加であった為、拙文ですがその中での感想を述べさせて頂きます。
本学会の詳細なテーマは抄録集に譲りますが、各報告は地域共生社会の実現に資する高い実践力を保持したソーシャルワーカー養成を契機とした、各大学大学の「独自性」「思い入れ」のある社会福祉教育実践内容であった。
基調講演の公文裕巳学長(新見公立大大学)の報告は、人間が生得的に獲得している「利他の心」を基盤とした、人間力の涵養を目指した教育実践を組織・システム的に実践している内容であった。「利他」については、コロナ禍において「他者」とどのように「共生」するのか、その可能性・危うさを含めて重要なテーマであると感じている私にとっては、刺激的な内容でありました。
公文学長の報告を受け、山本浩史氏(新見公立大大学)は、共生社会実践演習(副専攻:共生社会推進士)の具体的な教育実践内容の報告を行った。本報告の中心は、新見市内を学びのフィールドとして、山間集落の住民主体・パートナーシップの形成や地域課題の把握及び地域づくりに取り組む内容であった。
渡辺裕一氏(武蔵野大学 社会福祉学科)の報告では、学位授与方針(DP)に基づいて、現在実施している、1年次~4年次にかけて実施される「4年 間通い続けるフィールドプログラム」「ソーシャルアクションプログラム」「フィールド実習(ソーシャルワーク実習とは別)」「武蔵野市自由講座」等、重層的・多様な構造を持つ教育プログラムが示された。
これらの報告は各大学DPとの関連性を持ちながら、各大学の特徴を示した「思慮深く、熱意溢れる」教育プログラムであり、これらのプログラムを支えている教員らの「汗」も感じられた。これらの経験を通して学生は、社会問題意識を高めて、様々なステークホルダーとの交互作用を通して、新たな価値を形成すると貴重な機会となる。
今後、これらの各大学の独自性を持つ教育プログラムは、拡散の方向に進展するのか、さらには、DPを視野に置きつつ汎用的思考(市民リテラシー的な)を養っていくのか、ソーシャルワーカー養成という視点で収斂していくのか、重要なテーマが提供された。
今後、教育機関は教育の質の担保を促進しつつ、実践現場に学生を送り出し、育成も視野においた関わりが重要となる。岡勇樹氏・森亮介氏(NPO法人Ubdobe)の「福祉留学」「SOJA MIX PROJECT」(資料提示のみも含む)及び、五嶋仁氏(社会福祉法人大樹会)の「複数地域間の共創型学習環境とプラットフォーム形成」らの実践活動報告からは、人口減少が著しい過疎地域を含む、福祉関連職の人材確保に向けた重要な視点が提供された。今後、福祉人材確保が国家的社会問題となっている現状において、教育機関はこれらの機関と積極的に連携し、プラットホーム形成に参画してくことが重要なテーマとなる。
学会参加を通してソーシャルワークをより深化・発展させるために、自己が検討しなければならない課題を以下に示します。
①ソーシャルワークは伝統的に「状況の中の人」をキー概念に、エコロジカル・パースペクティヴの視点を養い、「個人と環境の交互作用」を基盤として発展している。ケースワークを丁寧に実践すると環境との交互作用は必然となる(ミクロ・メゾ・マクロの交互作用)。多様な学部が地域というフィールドに参入している現状の中、(新)ソーシャルケースワークの検討。②地域共生社会における「住民の主体化」対する主体論からの検討、ここから生み出されたソーシャルワーク24機能(社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会 平成30年3月27日)の内容の丁寧な検討が必要と感じております。
本学会に関係して頂いたすべての方々に心より感謝申し上げます。
第18回 学会企画シンポジウムに参加して
大村 亜沙美(みやぎ県南中核病院)
私は急性期病院で医療ソーシャルワーカーとして勤務しております。実践現場の実習指導者として、新カリキュラムに向けて実習プログラムを一新する時期が来ており、どのように進めていくか悩んでいる状況で学会企画シンポジウムに参加いたしました。
第18回学会企画シンポジウムは「地域共生社会の実現に資するソーシャルワーカーを育成する実習のあり方~メゾ・マクロレベルのソーシャルワーク実践を実習プログラムにどう盛り込むのか~」というテーマで4名の方から養成校側、実習指導者側からそれぞれが取り組んでいる実習指導について報告がありました。
西川先生はまちおこしを通して、学生の皆さんが地域課題を把握し、実際に地域住民の方々との協働を通して地域に根ざした実習展開について紹介いただきました。
中尾先生は地域滞在型実習として社会福祉協議会の所在地に住み込み、ある一つの地域を選定しその地域課題の把握から、分析、提案を行う実習の効果について。地域診断の際に地域住民の方から情報提供を豊富に受けられる特徴についてお話いただきました。
白石氏、西部氏は社会福祉協議会における地域滞在型実習における実習指導者側として実習を受け入れる効果について、実習生が一住民となることから日常での関わりを通して地域を多く学ぶことができること、実習受け入れ自体が地域福祉活動の可能性を広げるきっかけとなることを、紹介されました。
丸山氏は「ペガサス・トータル・ヘルスケアシステム」をもとに救命救急から在宅療養支援までの医療や介護、福祉、保育の連携の重要性を理解してもらえるよう実習プログラムに反映され、個別支援のみならず、組織内でのコーディネート業務などメゾレベルの実践とミクロレベルの実践の循環についても意識され指導されていることをお話いただきました。
新カリキュラム導入に向けてメゾ・マクロレベルの実践を実習プログラムにどのように盛り込んでいくかということが私自身の課題となっておりましたので、今回のシンポジウムは4名の方の取り組みをご紹介いただき、大変貴重な機会となりました。
実習指導者としてメゾ、マクロレベルの実践を日々どのように行っているのか改めて確認し、新カリキュラムに対応した実習指導ができるよう努めていきたいと思います。
自由研究発表に参加して
Virág Viktor(日本社会事業大学)
自由研究発表は、大会2日目の8月21日(日)に13時から約1時間半にわたって開催された。高杉公人理事(新見公立大学)が座長を務め、以下4件の研究発表が行われた。
小川智子会員(城西国際大学)は、「社会福祉教育カリキュラムの変遷にみる「演習」の位置づけの特徴に関する研究」というテーマで発表した。歴史的な変遷に焦点を当てながら、演習の位置づけを3つの時期に分け、その特徴について分析することで、福祉系大学の演習担当教員に対する影響性に関する考察を研究目的とした。文献調査を基に、1947年~1985年の「演習科目の誕生前」、1986年~2008年の「演習科目の設置」、2009 年~現在の「演習科目の教育内容の規定」の 時期が区別された。演習の在り方について歴史的に振り返ることで、演習教育の課題と担当教員にこれから求められることついて示唆を得ることができた。
田中千枝子会員(日本福祉大学)は、「コンピテンシー修得のための保健医療福祉の演習教材の開発~組織から地域へメゾレベルの展開の視点から~」をテーマに選んだ。保健医療福祉分野における共通コンピテンシーに関する教育コンテンツを研究する大規模プロジェクトの一環として、初学生のうちから保健医療福祉7資格を想定して求められるコンピテンシー習得を促す演習教材の開発プロジェクトを実施した。専門職の自立と職業倫理、安全の確保と質改善、当人の理解と支援、チーム・組織の理解と協働的実践、地域・社会活動とソーシャルアクションの5つのコンピテンシー領域をさらに詳しい要素に細分化し、これらのコンピテンシー要素所が含まれる領域ごとの3事例、合計15事例が多職種連携教育において活用できる教材として出来上がった。
髙妻瑠弥乃会員と樋口成樹会員(宮崎学園短期大学)の共同発表は、「コロナ禍における保育士養成校学生の施設学内実習に関する一考察」のテーマに沿って行われた。保育実習の全体像について紹介した上で、コロナ禍の実習教育への影響と学内実習における工夫について整理した。施設実習と学内実習を経験した学生のアンケート調査から、それぞれの特徴と課題、長所・短所などが浮き彫りになり、今後の時代に合った保育実習形態について検討する材料となった。
平塚謙一会員と若林功会員(常磐大学)は「茨城県地域におけるソーシャルワーク専門職のキャリア形成に関する研究 一次報告」というテーマについて共同発表を行った。研究目的は、茨城県地域におけるソーシャルワーカーのキャリア形成、特に外的キャリア及び現在の仕事に対する意識等について明らかにすることであった。そのために、県内の社会福祉施設等を通じて、ソーシャルワークカーの勤務先、職種、雇用形態、勤務年数、業務内容、年収、資格手当、職場の満足度、仕事の継続意思、分野内の通算継続年数、資格取得の有無や経緯などについてアンケート調査を実施した。これらのデータは、ソーシャルワーカーを目指している大学生や福祉の仕事について検討している高校生等の進路選択などの参考資料ともなることが期待される。