福祉教育実践研究報告
◆[連載コラム] ソーシャルワークとリサーチ あれやこれや
安藤 幸(京都大学大学院教育学研究科)
③科学としてのソーシャルワーク
いつものように朝イチでEメールを確認すると、Society for Social Work and Research(全米ソーシャルワークとリサーチ学会)からメッセージが届いていました。2023年1月に5日間アリゾナ州フェニックスで開催される年次大会のお知らせです。懐かしい思いが蘇ります。
アメリカの大学でソーシャルワークの大学院生、後に教員をしていた時、秋学期終盤の11月に開催されるCSWE(全米ソーシャルワーク教育委員会)年次大会と、春学期が始まってすぐの1月に開催されるSSWR年次大会は大きなイベントでした。自分の研究を発表したり、新しいテーマの情報を収集したり、ネットワーキングをしたり。CSWEとSSWRはとても心躍る機会でした。
そんなSSWR 2023のテーマは「Social Work Science and Complex Problems: Battling Inequalities + Building Solutions」とのこと。意訳すると、「ソーシャルワーク科学と複雑な問題:不平等に対抗し、解決策を打ち立てる」とでもなるでしょうか。不平等を生み出す複雑な問題とそのソーシャルワーク的解決策は、とても興味深いテーマです。しかしそれよりもなによりも私の目を引いたのは、「Social Work Science(ソーシャルワーク科学)」という言葉です。
「Social Work Science」は、いつから使われるようになったのでしょう。そこで過去の年次大会のテーマを調べてみたところ、2021年の年次大会のテーマではすでに「Social Work Science for Social Change(社会変革のためのソーシャルワーク科学)」とありました。続く2022年の年次大会のテーマは「Social Work Science for Racial, Social, and Political Justice(人種的、社会的、政治的正義のためのソーシャルワーク科学)」となっていて、2023年も「Social Work Science」シリーズを踏襲しているようです。
1915年のエブラハム・フレクスナーによる「ソーシャルワークは専門職か?」の提言以降、「ソーシャルワークはアートかサイエンスか?」という議論は続けられてきました(Samson, 2015)。人と社会のウェルビーングの追究には、エビデンスに基づくソーシャルワーク教育やソーシャルワーク実践が不可欠であり、エビデンスをもたらすものは科学とされます。その点においてソーシャルワークは、科学のコンシューマーであることは確かです。その一方で、Shaw(2014)は、ソーシャルワークはたしかに実践に基づく専門職であるとしながらも、人や社会の課題に向き合うためのソーシャルワーク固有の知識体系を有していないとし、Brekke(2013)もまた、サイエンスの高みに上り詰めるためにはソーシャルワークが広域な知識を内包化・体系化していく必要性を説いています。
SSWRによる「Social Work Research」のフレーミングは、あるテーマをもとに、ソーシャルワークの研究者がソーシャルワークの視点からエビデンスを重ね、ソーシャルワークの知識体系を構築する協働作業なのでしょう。
前回のコラムの最後に、「次から、ソーシャルワークにおける混合研究法について理解を深めていきたい」と書きつつ、今回は「Social Work Science」について取り上げました。次こそは、Social Work Scienceを構築する研究手法について考えていきたいと思います。
参考
Brekke, J. S. (2013). A science of social work, and social work as an integrative scientific discipline: Have we gone too far, or not far enough? Research on Social Work Practice, 24(5), 517-523.
Gehlert, S. (2015). Social work and science. Research on Social Work Practice, 26(2), 219-224.
Sansom, P. L. (2015). Practice wisdom: the art and science of social work. Journal of Social Work Practice, 29(2), 119-131.
Shaw, I. (2014). A science of social work? Response to John Brekke. Research on Social Work Practice, 24(5), 524-526.
Thyer, B. A. (2007). The quest for evidence-based practice?: We are all positivists! Research on Social Work Practice, 18(4), 339-345.
◆ゼミ活動・子どもの遊び場「にっこりランド」の企画・運営
小関久恵(東北公益文科大学)
本学が立地する山形県酒田市日向(にっこう)地区における、ゼミ活動『にっこりランド』をご紹介します。日向地区は高齢化率が50%を超えており、市内でも高齢化と人口減少が顕著に進む中山間地域です。私は2011年から当該地区の地域づくり活動全般(地域防災、交流の場づくり、地域ビジョンづくり他)に、大学の教育プログラムを通じて伴走してきました。
『にっこりランド』では、廃校利用のコミュニティセンター内に開設されたコミュニティカフェ「日向里(にっこり)café」※において、子育て世代の方にもゆっくりカフェを利用してもらいやすい環境をつくることを目指し、子どもの遊び場を企画・運営しています。
活動が始まった経緯としては、2019年にコミュニティカフェができるタイミングで、この「場」をどう活用していくか、アイディアや可能性を検討するワークショップを住民・行政・大学の関係者が集まり開催。その際、「多様な人が集う場づくり」と「日常生活を支える仕組みづくり」に向けて「大学生のできること」としてゼミ生が提案したアイディアが、この『にっこりランド』でした。その後、同年11月からスタートし現在に至ります。
スタートしてすぐにコロナ禍に突入してしまいましたが、緊急事態宣言が出された際にも、オンライン(zoom)で親子とつながり、画面越しではありますが「絵しりとり」や「こいのぼりの飾りづくり」など、工夫を凝らしながら活動の灯を消さないよう取り組んできました。
今回は、動画という媒体によってこの福祉教育実践を報告させていただきます。なお、この動画もゼミ生が制作しています。どうぞご覧ください。
※日向里caféは、住民・行政・企業・大学の協働・共創により、閉校した小学校をDIYによってリノベーションして開設した、住民運営のカフェです。日替わりで住民が店長となってランチを提供しており、本学の学生も月1回担当しています。カフェには、産直コーナーや手作り雑貨コーナーなども設置され、地域内外をつなぐ場となっています。なお、「日向里かふぇ」が正式な表記で、この名称も住民から募集し投票によって決定しました。
小関ゼミ活動・子どもの遊び場「にっこりランド」紹介動画