2022年度の回顧と今後の展望
志水 幸(北海道医療大学)
平素より、学会会員諸氏には、学会の活動にご理解ご協力を賜り感謝申し上げます。
2022年は、コロナ禍における学会活動の3年目となりました。本学会は、コロナ禍元年の2020年度より、多くの関連学会が開催を見送るなか、オンライン開催による大会や春季研究集会の開催を継続してまいりました。これも偏に、会員諸氏のご理解の賜物であると感謝しております。加えて、あらゆる困難を乗り越えた各種学会事業の担当者や学会事務局および理事会のご尽力に感謝申し上げます。
2022年8月に開催された第18回大会は、「『地元学』と社会福祉教育〜社会福祉教育は『地域づくりに向けた支援』にどう向き合うのか〜」をテーマとして、新見公立大学の運営によりオンライン開催されました。今大会の新たな試みとしては、学会企画シンポジウムについて、本学会と〔一社〕日本ソーシャルワーク教育学校連盟中国四国ブロック(以下、ソ教連)との共催です。2015年の厚生労働省「新たな福祉サービスシステム等の在り方検討PTによる「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」(以下、提供ビジョン)を嚆矢とする地域共生社会実現のための政策下においては、それぞれの地域における社会福祉教育は当該地域特性を考慮した上で展開する必要があります。そのことは、ソーシャルワークのグローバル定義に基づく「ソーシャルワーク教育・養成のためのグルーバル・スタンダード(2020年)」の「(1.中核となる使命、目的、目標)d.ソーシャルワークの専門職の発展と、養成校が関わるよう努めるコミュニティのエンパワーメント(地域的、全国的、国際的)に貢献するための幅広い戦略を明確にする」こととも合致したものと言えるでしょう。加えて、社会福祉士や精神保健福祉士養成に係る令和元年度カリキュラム改正では、教育機関と実践現場や職能団体との連携のよる人材養成のあり方が示されていました。その意味で、学会の研究事業を推進するにあたり、ソ教連当該ブロックをはじめ、当該地域における実践現場および職能団体との連携は必須であると考えております。今後の、より一層の連携を期待しております。
また、2022年度からの新たな事業として、担当副会長や理事の主導のもとで会員を募り、課題研究「ICTを活用した社会福祉教育のあり方に関する総合的研究」を立ち上げました。政府は2018年6月15日に第3期教育振興基本計画(計画期間:2018年度〜2022年度)を閣議決定しております。その中で、「大学教育については、学生が主体的に学修するアクティブ・ラーニングへの展開を図るなど、教育の質の向上の観点とともに、グローバルに進展している教育研究のオープン化に対応し、大学の知を広く国内外に発信する観点からもICT化の利活用を推進することが求められる」と指摘されております。社会福祉の実践現場に視点を移せば、2020年6月の地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)では、医療・介護のデータ基盤の整備の推進が位置付けられました。それに基づき、2021年度介護報酬改定では、介護サービスの質の評価や科学的介護の取り組みについての加算が開始されました。同様に、障がい分野でも2021年度障害福祉サービス等報酬改定でも、感染症や災害への対応力の強化や障害福祉サービス等の持続可能性の確保と適切なサービス提供を行うための報酬等の見直しにおいて、ICTの活用が位置付けられております。さらには、大阪府箕面市や埼玉県戸田市等々における先進的取り組みとして、教育と福祉等とのデータ連携による子どもの貧困や虐待の早期発見・早期介入による効果が検証されております。このような具体的事実を踏まえ、社会福祉教育におけるICT化の推進も教育工学的なアプローチのみならず、新たな時代の福祉現場を担うに相応しい専門的コンピテンシーとしてのアプローチが求められると考えております。以上を踏まえ、3月21日にオンライン開催される第13回春季研究集会では、「ICTを活用した演習・実習教育の現状と課題-本学会・課題研究の中間報告-」を企画しております。会員諸氏による建設的な議論が展開されることを願っております。どうか、奮ってご参加ください。
次に、今後の展望として、現在私が最も注視している課題を述べます。それは、いわゆる共通基礎課程問題です。この問題は、保健医療分野では2015年6月9日厚生労働省「健康医療2035」策定懇談会「健康医療2035提言書」(38頁)の「地域包括ケアシステムを担う人材として、医療や福祉の資格の共通基盤(養成課程等)を整備すべきである」との指摘を嚆矢とし、福祉介護分野では先述の提供ビジョン(20頁)において「分野横断的な資格のあり方について、中長期的に検討を進めていくことが考えられる」と指摘されていました。その後、共通基礎課程の実装化に向け、国会・衆参厚生労働委員会(主に2016年〜2018年)や厚生労働科学研究事業や政策科学総合研究事業(2016年度〜現在まで6件の関連研究事業)において検討されてきました。その成果の一端が『地域ケアリング 2022 Vol.24 No.6』(株式会社北隆館)の「特集 対人支援職種の共通基礎課程」として掲載されています。また、2022年12月16日の「全世代型社会保障構築会議 報告書 〜全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する〜」(24頁)では、ソーシャルワーカー等の確保・育成の中で、「それぞれの専門資格の養成課程において共通の基礎的な知識や素養を身につけるとともに、一人の人材が複数の分野にわたる専門的知識を習得できるような工夫(複数分野の資格の取得、学び直しや中高年の参加の促進も含む。)の検討が必要である」と指摘されております。先述の特集では、今後のスケジュール(16〜17頁)として、各資格団体および資格教育団体とそ意見交換(私も、ある資格教育団体への意見徴収アンケートへの回答に応じている)、共通基礎課程の導入大学を募り新カリキュラム課程(既存カリキュラムとコンピテンシー・ベースの共通基礎課程)の試験的導入(新カリキュラムの指定規則への適合性について厚生労働省および厚生労働省の認定)が明記されています。当面は、手上げ方式による4年制大学での試行を前提としていますが、実装化の拡大に向けて各大学のデュプロマポリシーと共通基礎課程(コンピテンシー)との関連や教養教育と専門教育との関連、さらには資格養成課程の多ルート問題(学校種別、修業年限、編入学制度への対応等々)について議論を深める必要があるでしょう。そのためには、専門職養成課程のみの閉鎖的議論ではなく、高等教育のあり方をめぐる開放的議論の展開が求められます。社会福祉理論史の碩学・吉田久一氏は『日本社会福祉理論史』(勁草書房)の中で、学問的遺言の一つとして、「社会福祉理念の支えである社会福祉教育の独立性が乏しい。 カリキュラムの編成も理論的基礎を欠いて、時流に流されがちで、特に教育と行政の混濁化があった」(215頁)との警鐘を鳴らしております。その弊害を乗り越えることができる唯一の場が学会であり、政策的にも実践的にもニュートラルな立ち位置にある学会の強さであると確信しております。
最後に、会員諸氏には、このような学会の社会的意義をご自覚いただき、学会事業に対するより一層の主体的なご貢献をお願いし、結びといたします。2023年度が、学会の更なる飛躍の年となるよう祈念いたします。
以上