日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.42

福祉教育実践研究報告

◆[連載コラム] ソーシャルワークとリサーチ あれやこれや

安藤 幸(京都大学大学院教育学研究科)

⑤VUCAな課題に向き合うソーシャルワークと研究

 新年度・新学期の始まりは、2つの話題でもちきりでした。一つは、教育現場における生成系AIツール「Chat GPT」の使用について。もう一つは、マスク着用の新ルールについて、です。どちらも人によって意見が分かれる話題です。所属先の大学は学生に対して、Chat GPTの利用を一律に禁止または制限はしないものの、利用は個人の慎重な判断に委ねるとの通知を行いました。マスクについては、政府の見解で個人の判断とされてからしばらく経った今でも、多くの学生や教職員が継続して着用しています。

 話がそれますが、私にはお気に入りの気象予報士がいます。いつもていねいにわかりやすく、ユーモアを交えて天気予報を伝えています。あるときはスタジオを飛び出して、各地から中継で地域の魅力を紹介してくれます。私たちに身近な天気予報ですが、1993年に「自由化」されるまでは法律で気象庁だけに認められた行為でした。今ではおなじみ、気象予報士がそれぞれ独自の見解を述べることができるようになったのは(そして、外れても愛嬌だと受け入れられるようになったのは)、1993年以降のことです。地方の気象予報士は、気象庁が提供する数値予報のデータと地域の地形・地理・歴史などに基づく地域固有のデータをトライアンギュレーション(triangulation; 視点の輻輳化)させながら、こちらとあちらでは天気が変わる、どのような気象状況において特定の地域では土砂災害が起こりやすいなどと、地域の特性に合わせた予報を伝えます。全国版の天気予報や世界で伝えられる天気予報と、地方の天気予報に若干の誤差があるのはそれゆえです。

 ここで最初の話に戻ると、Chat GPTやマスクといった課題は、「どれくらいの学生が実際に使っているのか」「着用するのかしないのか」「他大学の方針はどのようなものか」といった単純な議論では済みません。なぜならば、Chat GPTは「なぜ使ってはいけないのか」「許容される使い方はあるのか」、マスクは「なぜ着用すべきなのか」「なぜ着用の有無は社会的分断を生むのか」といった考えや価値に関わる議論を生むからです。

ジャカランダ開花(大阪・八幡屋公園)
ジャカランダ開花
(大阪・八幡屋公園)

 VUCAは、最近たびたび耳にする言葉です。Volatility(変動性)・Uncertainty (不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、時代の特性を表しています。ソーシャルワーカーである私たちは、日々VUCAな課題と向き合っています。人と社会の課題は重層的で複合的であり、「どれだけ(の人が影響を受けているのか)」といった量的な問いから、「なぜ(このような課題が生まれるのか)」や「どのように(この課題を解決するのか)」といった質的な問いに直面します。つまり、量的および質的な調査からものごとを多角的に捉える「混合研究法」が必要とされるのです。

 ちなみに、この写真は、大阪・八幡屋公園のジャカランダです。日本では珍しいジャカランダ。和名の「紫雲木」が表すように、とても華やかで美しい青紫色のお花を咲かせる木です。かつてオーストラリアに住んでいた友人が、「オーストラリアでは、ジャカランダが咲き始めると春を感じる」と話していました。日本では、桜が咲き始めると人々が春を感じるように、オーストラリアでは、ジャカランダに人々は春を感じるようです。花の種類は違っても、共通する思いはあるのだな、と思いました。

 次回は、ソーシャルワークと混合研究法についてお話したいと思います。

参考文献

ウェザーニュース(2019年, 3月28日). 「平成史 用語の変化⑦ 天気予報が大きく変わった平成」https://weathernews.jp/s/topics/201903/260145/

Pope, Catherine・Mays, Nicholas著「Qualitative Research in Health Care」(大滝純司・藤崎和彦 訳「質的方法はどのようにして量的方法を補うか」). B.M.J. Publishing Group, 1996.
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/old/old_article/n2000dir/n2374dir/n2374_03.htm

読売新聞オンライン(2023年, 4月6日). 「チャットGPT巡る学校向け指針、文科省が検討・・『瞬時に作文』悪影響に懸念」
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20230405-OYT1T50276/

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