日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.43

日本社会福祉教育学会 第19回大会

 2023年8月26・27日、関西学院大学上ヶ原キャンパスにて日本社会福祉教育学会第19回大会「新・社会福祉士養成カリキュラムの実施状況と今後の課題」が開催されました。

 大会1日目は、空閑浩人先生(同志社大学)の基調講演「福祉士養成新カリキュラムの特徴とソーシャルワーク教育の課題~研究、教育、実践の連動と循環による専門職養成を考える~」と題し、「2007 年社会福祉士カリキュラム改正」の振り返りから社会福祉士・精神保健福祉士養成カリキュラム改正の背景、新カリキュラムのポイント、実習教育・実習指導の課題、教育という場で学生に何を伝えていく必要があるのか、これからのソーシャルワーク教育の課題は何かといったことをご講演いただきました。そして講演最後には、「今の時代にどのようなソーシャルワーク実践が求められているのかと、どのようなソーシャルワーカー養成が求められているのかは同一の問い」であり、「そのようなソーシャルワーカー養成のために、どのようなソーシャルワーク教育と研究が求められているのかが問われている」といった「研究、教育、実践の連動と循環」が大切であるといったお話をいただけました。

第19回大会(関西学院大学上ヶ原キャンパスにて)
第19回大会(関西学院大学上ヶ原キャンパスにて)

 午後は開催校企画ワークショップとして、「新カリキュラムに対応した実習及び演習プログラム開発ワークショップ」をテーマにコーディネーターを川島惠美会員(関西学院大学)、ファシリテーターを高杉公人会員(新見公立大学)、サンプルプログラム提供者として平尾昌也先生(関西学院大学)のもと開催されました。開催時、3つのグループに分かれ、演習や実習の課題を出し合い、その解決方法について話し合いが行われました。参加者の中には既に新カリキュラムを実施している会員もいらっしゃったこともあり、とても学びが深まるワークショップとなりました。

 大会2日目は、学会企画シンポジウム「新カリキュラムでのソーシャルワーカー養成教育における実習・演習の取り組み」と題し、コーディネーターを保正友子会員(日本福祉大学)のもと、シンポジストとしてご登壇いただけた先生方のご所属先での取組みもふまえつつご発表いただけました。

 はじめに中村美智代先生(龍谷大学短期大学部)より新カリキュラムに対応するこれまでの取り組みとして1・2年次での実施状況、新カリキュラムに対応した教育・実務専門家の方々へ向けた取り組み、実習をむかえる学生へどのような学習補充を行っているのかをご報告いただけました。

 次に添田正揮会員(日本福祉大学)より社会保障審議会における実習見直しの方向性とポイントや実習教育の体系と構造についてご説明いただいた後、実践能力獲得に向かうためにはどのように実習教育を展開する必要があるのか、そのためにどのように実習を組み立てているのか、想定される到達目標に達成するために実習生に最適な教育提供が行われているのか否かをご報告していただきました。

 最後に、宮本雅央会員(北海道医療大学)より「地域課題」に対応する社会福祉士にはどのような知識や技術が必要であるのか、そのためにどのような教育内容を提供する必要があるのかについてご報告をしていただきました。

 午後は、「フードバンク、フードドライブ活動ボランティア」に関する文献レビュー研究や福祉・看護系大学においてワークショップ形式での防災・減災教育ツールの作成を試みることでの学生の防災意識の変化の検証といった2つの自由研究発表が報告され、閉会となりました。

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 大会期間中、例年以上の猛暑に加え、突然の豪雨といった不安定な天気の中、会員の方々だけではなく非会員の方々も足を運んでくださいました。

 ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました!

【大会プログラム】

1日目(2023年8月26日)

13:00 ~ 13:15開会式
13:15 ~ 14:15基調講演
テーマ:「福祉士養成新カリキュラムの特徴とソーシャルワーク教育の課題~研究、教育、実践の連動と循環による専門職養成を考える~」
講師:空閑浩人氏(同志社大学)
14:30 ~ 17:30開催校企画ワークショップテーマ:
「新カリキュラムに対応した実習及び演習プログラム開発ワークショップ」

コーディネーター:川島惠美氏(関西学院大学)
ファシリテーター:高杉公人氏(新見公立大学)
サンプルプログラム提供:平尾昌也氏(関西学院大学)

目的新カリキュラムに対応した、演習クラスまた実習指導クラスで、どのようなプログラムを展開することが可能か、参加者のアイディアを持ち寄って演習プログラムを開発することを目的とする。
17:45 ~ 19:30情報交換会

2日目(2023年8月27日)

10:00 ~ 12:00学会企画シンポジウム
テーマ:「新カリキュラムでのソーシャルワーカー養成教育における実習・演習の取り組み」

コーディネーター:保正友子氏(日本福祉大学)
シンポジスト:
宮本雅央氏(北海道医療大学)
※ 社会福祉士と精神保健福祉士の共通科目が増えたことに関する取組について
添田正揮氏(日本福祉大学)
※ 240時間実習の実習・演習教育の円環(実習指導と実習、演習など)に関する取組について
中村美智代氏(龍谷大学短期大学部)
※ 240時間実習を実施した経験について
12:00 ~ 12:45総会
12:45 ~ 13:30休憩
13:30 ~自由研究報告

【参加者の声】

西村 愛(新潟県立大学)

 勤務校は、幼稚園教諭・保育士養成メイン、社会福祉士を目指す学生は、毎年1学年50人定員の半分の25人程度です。コロナ禍の3年間、1度も学会に参加しなかった私ですが、年明けから始まる新カリキュラムに不安を覚えて学会に参加しました。

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 基調講演の空閑先生のお話は、新カリキュラムのねらいについて、改めて確認することができました。また、参加する前に私が漠然と抱えていた不安や疑問について、空閑先生も同じようなことをおっしゃられていたため、勝手に共感してもらったような、癒されたような気分になりました。

 今回の学会で、色々と勉強させていただいたことはあったのですが、特に平尾先生のサンプルプログラムは、大変分かりやすくて良かったです。本学では、60時間+180時間実習を予定しているのですが、実習先に60時間の実習内容を伝えるにあたり、実習先によっては、依頼側の我々と受け入れ側とのイメージの擦り合わせに苦慮することが多々ありました。サンプルプログラムでは、短い実習期間で何を目指すのか、厚生労働省のねらいと合わせた実習内容が紹介されており、勤務校の実習でも取り入れられる有用な内容でした。

 また、開催校企画のワークショップでは、既に新カリキュラムを実施されている先生方と実習内容や様々な意見交換ができたのは、この学会ならではだと思いました。2箇所それぞれの実習に向けての事前指導や事後指導、2箇所を統括した事後学習など、どのような学びが必要であるか、グループでの話し合いと空閑先生の講演と併せて理解をさらに深めることができました。

 有意義な学会でしたが、「2007年社会福祉士カリキュラム改正」前から社会福祉士養成に携わっている私としては、この15年あまりの間で見えてきた、複雑で重層的な社会問題のみならず、コロナ禍で人と人との関わりが希薄にならざるをえない状況下で、厚労省が掲げるような、期待される社会福祉士の役割は大きくなっている一方で、養成校でもグレーゾーンと言われる支援が必要な学生たちが増えてきて指導が難しくなってきている状況や、そもそも果たして240時間、2箇所実習で、どこまで学ぶことができるのか、卒業後に向けた学びに繋げていく課題についても、皆さんと話をしたかったのですが、限られた時間では難しく、ちょっと欲張りすぎた内容かなと感じました。来年度も、第二弾新カリキュラムの展望と課題として話し合いができるといいなと思います。

石井千麻(群馬医療福祉大学)

開催校企画ワークショップにてグループワークを実施
開催校企画ワークショップにてグループワークを実施

 初めに、同志社大学の空閑先生による基調講演「福祉士養成新カリキュラムの特徴とソーシャルワーク教育の課題」では、今回のカリキュラム改正の成果として、実習指導や実習プログラムに関する研修会や勉強会の開催・普及を通じ養成校と実習先施設・機関の連携が図られてきたことを挙げられた。一方で、実習教育をめぐる法人・施設間、養成校間(教員間)での意識の格差や、ソーシャルワークのあり方への議論と理解の必要性を訴えておられた。

 この講演で印象深かったのは、ソーシャルワークの研究や実践が魅力的に感じられるかは、身近にいる教員やソーシャルワーカーによって影響されるという点と、実習先施設・機関と実習生の間を教員が「つなぐ」必要があるという点だった。昨今では福祉のマイナス面が強調されがちで、「魅力」「可能性」には焦点が当たりにくいが、プラス面を身近な教員やソーシャルワーカーが示す必要性を感じた。

 1日目の午後は、ワークショップ形式で、3グループに分かれて演習・実習の課題を出し合い、その解決方法について考えた。私のグループでは、「実習先によってプログラムの内容にばらつきがある。実習先と実習生とのマッチングを教員がするべき」「1回目の実習と、2回目の実習の引き継ぎをどうしていくか」等の課題が挙がった。実際に240時間の実習が始まってみないと分からないが、ある程度想定できることは考えておく必要があると実感した。また、学生が実習で身につけてくるべき学びの形を教員側が具体的にイメージし、それを共通認識として実習先・機関も持てるようにする。実習先と養成校の希望する実習内容が乖離しないように、そのパイプ役に教員がなる必要があることをここで再確認できた。

 2日目は、「新カリキュラムでのソーシャルワーカー養成教育における実習・演習の取り組み」についてのシンポジウムが行われた。龍谷大学短期大学部の中村先生、日本福祉大学の添田先生、北海道医療大学の宮本先生による3校のサンプルプログラムの紹介であった。まず、中村先生の取り組みでは、障害のある方と共に演劇や音楽を楽しみながら、学生がふれあう機会を持てる「ふれあい大学課程」が印象に残った。共通の目的を通じて、お互いが感動したことを共有できるという点である。次に、添田先生は、実習の期間を意識すると忘れがちになる実習細部の役割や、実際には何を学んでくるかについて、実習後の評価を含めて話された。最後に、宮本先生は、人の生活を捉えるために、起床から就寝までの行動を学生が実際に現地に移住して学ぶという内容を紹介された。

新カリキュラムのソーシャルワーク実習Ⅱを行った1年後に、新たに出た課題や工夫できた点を持ち寄り、それを養成校間で共有し、今後のより効果的なソーシャルワーク実習につなげていくことを目指して閉会した。

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