日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.44

福祉実践教育

【連載コラム】ソーシャルワークとリサーチあれやこれや

⑥最後に思うこと、そしてこれから

安藤 幸(関西学院大学)

 ニュースレターNo.38から5回わたって、[ソーシャルワークとリサーチ あれやこれや]と題したコラムを連載させていただきました。今回(第6回目)は最終回として、まずはまとまりのないまとめをし、最後に今後の期待も含めて今思うことをお伝えします。

 第1回では海外における量的研究志向について、第2回では研究の根幹をなすものについて、第3回ではソーシャルワーク・サイエンスについて、第4回では研究における当事者について、第5回では不確かな時代における研究について、それぞれ思いを綴りました。そして毎回、「混合研究法」については触れたいテーマでありながら、なかなか着手できませんでした。

 2023年は、抑圧されてきた者の声が堰を切ったように噴出した年だと感じています。これまで大きな社会や組織の中で押しつぶされてきた弱者の声がぽつりぽつりと漏れ出し、世相の後押しもあってついには大きな声となって、社会全体を揺るがすまでになりました。このことは、最近話題となっている「マルアカ(1)」や「ソフト老害(2)」など、世代間ギャップを表す言葉が新たに生み出されることにつながっているように思います。このような「声」を、私たちはどのように受け止めるでしょうか。「ああ、また言ってるよ」「なんだ、そんなことか」「我慢が足りないなぁ」「言われるこっちも辛い」などと軽んじてはいないでしょうか。真摯に耳を傾け、声を拾い上げる、それは質的研究に求められる姿勢だと思います。

イメージ

 その一方で、研究にはますます客観性が求められるようになっています。最近、海外のジャーナルへ投稿を試みたとき、研究プロセス(データ収集、データ、分析など)の開示を求められました。プロセスの開示には、(後の)研究者が「データ収集のプロセスを再現するのに十分な資料(sufficient materials for an independent researchers to reproduce the data collection procedures of the study)」と「報告されたすべての結果を再現するための情報(information for an independent researcher to reproduce all of the reported results)」が含まれていました。前述の情報は、研究の透明性を確保するために必要なものだと思います。しかし、後述の情報については、何処までを指すのだろうかと疑問に思いました。例えば、使用する尺度の信頼性や妥当性は絶対に必要ですが、社会や人々の生活課題は個別化、複雑化してきており、「すべての結果の再現」は、ソーシャルワークの研究においては必ずしも現実的ではないように思います。

 ソーシャルワーカーである私たちは、日々VUCAな課題と向きあっています。2024年は、大きな災害とともにスタートしました。被災状況の把握や支援の遅れが際立ちました。SNSなどの普及で、被災された人々のリアルな声はライブで届きます。一方で、体系化された支援の必要性などはなかなか伝わりづらいものでした。これからインフラやライフラインの復旧などの目に見える復旧は、日々進んでいくことだと思います。しかし、被災された人々の生活や心の回復は、同じようなスピード感で進むことはありません。研究においても、実践においても、質的と量的どちらの視点も忘れてはならないことを、私たちソーシャルワーカーは、心に留めておく必要があると思います。

ありがとうございました

 最後に、改めまして、このような連載の機会をいただきありがとうございました。研究者としてはまだまだ未熟者でありながら、ソーシャルワークにおけるリサーチについて自由に語る機会をいただいたこと、そして、「あれやこれや」にお付き合いいただいた学会の皆さまに、心からお礼を申しあげます。ささやかでも、皆さまが日々何かを感じ、考えるきっかけとなっていましたら幸いです。今後も「ソーシャルワークのこれから」について、学会の皆さまと対話する機会を持てますことを期待しています。

  1. 「マルハラスメント」の略称。上司などから受け取ったLINE などのメッセージが句点で終わっていることに対して、若者が距離感、冷たさ、恐怖を感じること。(日テレNEWS, 2024 年2 月14 日 「“マルハラ”って何?上司からの「。」が怖い 「怒っている」「距離感じる」の声 世代間ギャップ どうすれば…」,
    https://news.ntv.co.jp/category/society/efc415d552024e658a20e0524d9449db
  2. 中堅(30 代や40 代)であっても彼らの言動は、若手(20 代)にとっては威圧的なものとなること。(FNNプライムオンライン, 2024 年2 月12 日 「『ソフト老害』は高齢者だけの問題じゃない 鈴木おさむ氏が放送作家をやめるキッカケにも 「40 代でも行動次第では老害なんだ」,
    https://www.fnn.jp/articles/656319
安藤先生、全6回の連載、ありがとうございました!

目次に戻る

お問い合わせ 入会のご案内

日本社会福祉教育学会事務局

東北公益文科大学 小関研究室
〒998-8580 山形県酒田市飯森山3-5-1
TEL:0234-41-1288
FAX:0234-41-1192

ページトップへ