日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.45

アポリア連載

 本企画は、ニュースレター初の試みです!

 会員の皆さまが、本学会の研究対象は「高等教育における社会福祉専門教育」という認識のもと、さまざまな高等教育機関から社会福祉教育のあり方を考えるきっかけとなれば、という想いより本連載を始めました。

 各々の機関の現状、今後どのように変化していく必要があるのかを考える機会となれば幸いです。

 第1回目は、本学会会長である志水幸先生会員(北海道医療大学)にご執筆いただけました。お忙しい中、誠にありがとうございました。

アポリアとしての高等教育における社会福祉教育

日本社会福祉教育学会会長 志水 幸(北海道医療大学)

 アポリア連載企画の第一回として編集者から与えられたテーマは、「高等教育を考える」というものであった。浅学菲才の者には荷の重い課題であるため、パッチワーク的に先学のお力を援用した二次的創造i的に試論を展開する。

 翻って、アポリアとは、アリストテレスの第一哲学である『形而上学』では、問いに対する相反する二つの対立する答え、すなわち難問、隘路と蹉跌のことである。敢えて、私に与えられたテーマである“高等教育における社会福祉”の観点から言えば、高等教育機関とは、研究機関か教育機関か、その目的は市民育成か専門職養成かに纏わる葛藤ということになる。

 さて、現在も、本学会のホームページに掲載されている会長就任時のNLにおけるご挨拶では、R.ティトマスの著作に触れ、その中で彼が援用したA.N.ホワイト・ヘッドの箴言を自戒を込めて引用した。特筆すべき点は、ホワイトヘッドのこの箴言は、アメリカにおける全米ビジネス・スクール協会の創立記念講演として行われたものであるということである。大学がビジネスに関わる事柄を教育・研究・訓練の場に取り入れることについて、中世以来の大学教育史を振り返りつつ述べた祝辞であり激励であった。

 ここで、高等教育の中核である大学が大学であることの意義に係る歴史的な文書を一瞥したい。

 「大学は現代のあらゆる教育組織の首位に立つものである。自由な社会においては、大学は同等の関係にある三つの機能を果たす。第一に、知的自由の伝統を価格では測りえない宝として擁護し、思想の自由を刺激し、探究の方法を完成し、知識の向上を推進し、科学と学問を培い、真理を愛する心を養い、社会に不断の啓蒙の源泉として奉仕する。第二に、大学は、才能ある若い男女を、あらゆる年代、あらゆる民族の最善の思想、最高の精神的刺激に触れさせることによって、彼らがその家族生活および社会生活の改善、産業や政治のより能率的、人道的な行動、さらには国家間の理解と善意の促進のための、指導的地位を占めるように育てる。第三に、大学は、常に変化し、また不断に出現する社会の要請につねに敏感でありつつ、選ばれた若い男女を、新しい職業についても昔からの職業についても、その技術に熟達するよう訓練する。」

 この文章は、GHQ総司令官マッカーサーの要請に応じてアメリカ政府が派遣した合衆国対日教育使節団が作成した報告書の一節で、「高等教育」の章の冒頭に置かれているものである。なお、第三の指摘である専門職教育の重要性は、日本社会事業学校、さらには日本社会事業大学の設置の淵源でもある。

 我が国の高等教育研究の第一人者である寺﨑昌男は、同報告を「体系的な近代大学像を、バランスよく語ったまれに見る大学論」であると評価し、「大学」を「大学教員」に置き換えて読むことを提唱されている。それにより、高等教育機関の本来の使命である、自由によって支えられた研究、人間形成と教養教育、専門職教育の三つの機能に対して同等の関心を持つことを喚起しているのである。先に指摘したホワイトヘッドの箴言について寺﨑は、「この点こそ実務教育や資格獲得だけをめざす学校と大学とを区別する指標なのではあるまいか」と指摘している。

 寺﨑は、この点を敷衍して「問題は資格のための教育・学習の形態と内容が、イマジネーションを介して行われるかどうかである。さらに、知識の真の伝達は、短なる詰め込みや教え込みによって成功するのではなく、学習者の参加を通じたアクティブな学習によって初めて成功する。さらにホワイトヘッドによれば、教員自身もまた、想像力を持ち続けつつ自分の経験と研究とをつなぐことを求められる。現在日本の大学にひときわ強く求められている『創造的研究』とは、まさにそういう基盤の上に花開くものであろう」と指摘している。

 擱筆に当たり、斯界の先学の箴言を援用する。吉田久一は遺言的著作の中で、社会福祉理論の反省として6項目を指摘しているが、その最後に「社会福祉理念の支えである社会福祉教育の独立性が乏しい。カリキュラムの編成も理論的基礎を欠いて、時流に流され(ママ)ちで、特に教育と行政の混濁化があった。」と指摘している。後継の我々は、この警鐘について、痛みを伴って認識しなければならない。

ⅰ 外山滋比古(1975)エディターシップ,みすず書房.を参照されたい。
ⅱ 志水幸(2014):巻頭言 社会福祉教育研究の射程と本学会の意義,日本社会福祉教育学会NEWS LETTER No.23.P.1-2.
ⅲ R,M,ティトマス、三浦文夫監訳(=1971)社会福祉と社会保障−新しい福祉を目指して、東京大学出版会.P.29.
ⅳ ホワイトヘッド、森口兼二 他訳(=1986)ホワイトヘッド著作集 第9巻 教育の目的、松籟社.P.132.
ⅴ 村井実訳(=1979)アメリカ教育使節団報告書,講談社学術文庫.P106.
ⅵ 寺﨑昌男(2010)大学自らの総合力−理念としてのFDそしてSD,東信堂,P.7.
ⅶ 同上 P.15
ⅷ 吉田久一(1995)日本社会福祉理論史,勁草書房.P.215.

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