専門教育とは、「●●●」である!
本企画も「アポリア連載」に続き、ニュースレター初の試みです!実践者・研究者、各々の立場で「専門教育」について考えるきっかけとなれば…という思いより、スタートしました。
若手研究の方や現場実践の方を中心に、その人自身が考える「専門教育」とは何であるのかを「〇〇〇」という一言で表現してもらい、その理由(何を以て専門教育としているのかなど)などを教えていただく内容です。
初回は、堀田満生会員(音更町社会福祉協議会)、平塚謙一会員(常磐大学人間科学部)のお二方に熱い想いをご執筆いただけました!
お忙しい中、誠にありがとうございました。
「専門教育とは型の教授」
堀田 満生(音更町社会福祉協議会)
実践者として「専門教育」を述べるにあたっては、学生時代、或いは就職後に職場で教育を受けてきた立場と、現場の者として後輩指導や実習受入れをとおして実習生に指導をしてきた立場の2点が考えられるが、まずは前者の立場から私見を述べる。
私が学部学生時代に指導教員から受けた指導のなかで鮮烈に記憶に留まっている言葉がある。それは、「ベテランのソーシャルワーカーでも新米のソーシャルワーカーであってもクライエントに最善の利益を与えなければならない」というものである。
新人のソーシャルワーカーとして入職してから中堅となった現在まで、支援関係が終結した際に、この言葉が頭をよぎる。
職業としての専門性は、職業倫理性、専門的知識、専門的技術であり、専門的知識および技術を支えるものとして、基本的関連知識があると承知している。
知識と技術を二分して述べることには若干の違和感もあるが、学部卒業時点において、職業倫理、専門的知識、そして基本的関連知識は備わっていると仮定しても、それを実践(パフォーマンス)する専門的技術が備わっているか、また、単に実践するのではなく、「クライエントに最善の利益を与える」ことが要件となると更にハードルは高くなる。
では何を基準に、新米のソーシャルワーカーは実践するのか。私の場合は大学で教わった「型」であったと思う。教わった「型」に目の前の事象をはめていくことで、最善の利益になるよう実践していく。そこに、その分野・職場の方法を追加していくといった過程であったと振り返る。
次に、後者の立場としては、実習生や後輩指導においてもやはり、その人が持っている「型」を探ることからはじめることになる。現場で起きる目の前の事象の「見方」や「分類」の仕方、別の言い方をすれば、どのようなフィルターを通しているのかを確認することで、養成校でどの様な教育を受けてきたのかをある程度認識することができると感じている。
数年前に他学部からの編入生の実習指導を受け持った時、すなわち、本来習得しておくべき知識を習得せずに実習を迎えた学生への指導を経験したことで、専門教育としての「型」を更に意識するようになった。つまり、その学生は「型なし」の状態であったということである。
資格制度は専門性の担保という側面を持つが、それが型を修得することとイコールの関係にあるとは言い切れない。資格の取得を目指した学習は科目毎の知識の詰め込みであり、その知 識をソーシャルワークという本流に統合していくような関与を専門教育として意識しなければならないと感じる。
伝統芸能等「わざ」の世界において「型」の修得プロセスは「守・破・離」という段階があるが、専門教育は「守」の段階を修得するものであると考えている。
専門教育を受けた養成校出身の新米のソーシャルワーカーは専門職としては完成されていなくても、「守」の段階の「型」を有することで専門教育を受けてこなかった者と比して入職後の熟達の速度は優位であるとも感じている。 以上、実践者として「専門教育」について述べてきたが、随所に説明不足があり、極めて抽象的な表現となってしまったことをお詫びする。
「専門教育とは「寄り添うこと」である!」
平塚 謙一(常磐大学)
この度新しい企画へ寄稿させていただく機会をいただき、専門教育に関して改めて振り返る機会ともなりまして感謝申し上げます。ここで専門教育とは何かということを私の立場から申し述べるのは恐縮ではありますが、これまでの専門教育の経験のなかで感じたことを述べさせていただきたいと思います。
私は国家試験関連の財団法人での勤務などを経て茨城県の二つの大学でソーシャルワーク専門職教育に携わってきましたが、大学に着任したばかりの頃は、専門教育・指導が高度に体系化された環境に、私自身適応するのに苦労しました。教員としての役割を果たすために社会福祉制度やソーシャルワーク技術等に関する知識のアップデートすることはもちろん、学生一人ひとりに対して提出物へのコメントや対面での面談を繰り返し実施する非常に手厚い指導の体制でした。そうしたなかで学生たちは朝から夜遅くまで実習計画書の準備や実習報告書の作成(振り返り)、実習報告会の準備、演習課題等に取り組み、その努力を通じて着実に力をつけていくのです。実習に向けて取り組むなかでソーシャルワークの専門性について鍛錬を重ね、また社会人としての言動やマナーなどについても試行をとおして身に着けていきます。1年生から2年生、2年生から3年生へと飛躍的に成長していく様子にとても驚いたことを覚えています。
そうしたソーシャルワーク専門教育では、一人ひとりの学生に寄り添い、どのような思い込みやこだわり、捉え方の偏り、知識の不足が理解や成長を妨げているのかを理解し、指導に対して受け入れがどの程度あるかも踏まえ、それぞれの状況にあった指導や対応を行います。そのためには授業や面談、日常の関わりをとおして、学生それぞれの個性や考え方、目指す将来の方向性等を理解するように意識します。また実習において(将来就職してからも一層関わりますが)、学生自身がそれでよいと思っていてもそこに課題がある可能性もあり、専門性を高めるためには自身が自立的にスーパービジョンを求めることが大切です。例えば、利用者に対する支援や声掛けなどの関わり、またその中で感じた感情をスーパーバイザーに伝える自己開示を行うことで、適切な助言を得ていくことができるようになることは大切です。また現場における関係性の構築にも関わります。学生や若いワーカーの人たちが自己開示を行うことができるように促すこと、自己開示をしやすい環境をつくりだすこともスーパーバイザーが行い得ることかと思います。またソーシャルワークは感情的に負担がかかる仕事であり、バーンアウトを防ぐことにもスーパービジョンは関わります。これまで日本ではソーシャルワーカーの出身校の教員が(管理的機能はもたないものの)スーパーバイザーとなっているケースが多いことが指摘されてきましたが、若いワーカーを支える仕組みとしてそれも意義のあるものではないかと考えます。
学生が卒業後に福祉の専門職として就職することによって、卒業後も福祉に関する様々な機会で教員との関わりが継続していくということも、ソーシャルワーク専門教育の一つの側面であると思います。このことも教員に対して一層専門教育への意欲を高めさせることであると思います。ソーシャルワーカーとして働く卒業生と教員・養成校との関係性のなかで、学生は卒業生からお話を伺ったり、現場でボランティアやアルバイトをする機会などを得ます。実際に働いている先輩の体験をお聞きしたり、現場での経験をすることで、学生は自身の将来像を具体的に描き、将来に向けた道筋を見出すことに繋がります。
今回キーワードに「寄り添うこと」をあげさせていただきましたが、それは教員から学生に対してもそうなのですが、それを教員が身をもって示すことをとおして、学生が将来の支援者として利用者に対してそのような関わりをしてもらいたいという意図も含めて選ばせていただきました。