日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.49

巻頭言

専門職養成における実習担当教員について

日本社会福祉教育学会 理事 川島 惠美(関西学院大学)

理事 川島惠美会員(関西学院大学)

 2021年に社会福祉士養成の新カリが導入され、特に2023年度からの2カ所240時間実習の本格導入以降、各養成校では様々な工夫をこらして、対応を行なっておられることと思います。本学会においても、2022年3月の第12回春季研究集会での「新・社会福祉士養成カリキュラムにおける240時間実習のあり方について」というタイトルで基調講演とシンポジウムを行なったことを皮切りに、2023年度の学会では「新カリキュラムに対応した実習及び演習プログラム開発ワークショップ」と銘打って、実習にかかわる多くの先生方にお集まりいただいて、2カ所の実習とその前後をつなぐ事前、事後学習に関するワークショップを行いました。そのワークショップで明らかになった課題を受ける形で、2023年度の春季研究集会では「社会福祉士養成新カリキュラムにおける240時間実習実施の課題解決に向けて」と題して引き続きのワークショップを開催してきました。

 ここまで丸2年間、2カ所実習の課題にこだわって会合を行ってきましたが、現段階での課題としては、①異なる2カ所の実習をどのように効果的、効率的につなぐのか、②異なる2カ所の実習先と養成校、2カ所の実習先間の連携をどのようにとっていくのか、③2カ所実習の実施にあたっての実習先、養成校、実習生それぞれへの負担増にどのように対応するのかという3点があがってきています。この3点をみるとわかるように、実習のトータルの時間が増えたということよりも、実習先が2カ所以上であるということに起因して対応すべき事項がとても増えたといえるのではないでしょうか。

 こうした状況の中で、実習担当教員の負荷はますます大きくなっていると考えられます。実習先・養成校・学生という3者の間を総合的にとりもち、より良い実習体験へと導く役割が求められているということです。また、学生の適性に合わせたスーパービジョン、実習先で何かしでかした時のトラブル対応、場合によっては卒業後の福祉系キャリア支援にまで及ぶこともあります。通常の教育や研究に加えて、こうした実習担当にかかわる多くの業務をこなしている福祉系の大学教員はエラい!と思ってしまうのは私だけでしょうか。

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 今年の学会の時に、「私は、実習指導者はコンシェルジュだと思ってやっています」とおっしゃっておられる先生がおられました。ご存知の通り、コンシェルジェとは、ホテルや商業施設等で顧客の多様な要望、相談に応じ、きめ細かなサービスを提供する「総合お世話係」のことであり、ホスピタリティとその領域での様々な知識、臨機応変な対応力が求められる専門職です。ちなみにチャッピーに「実習コンシェルジェとは?」と聞いてみると「社会福祉士養成過程における実習教育を円滑かつ効果的に進めるための支援役を指す概念で、学校、実習先、学生の三者をつなぐ総合的なコーディネート担当として機能する」という答えが返ってきました。もちろん実習コンシェルジェなどという職名は日本にはないと思いますが、これは紛れもなく実習担当教員のお仕事です。一方、アメリカの大学には、フィールドエデュケーションコーディネーター、フィールドワークコーディネーターといった名称の専任教員を置くシステムがあります。この役割は、ソーシャルワーク専門職の養成を行うための実習教育を円滑かつ効果的に進めるために重要なものであり、学生が現場で実践的なスキルを習得できるように指導や調整の責任を負います。コーデイネーターの要件として少なくとも修士号(MSW)以上のソーシャルワーク関連の学位や現場での実務経験、ソーシャルワーカーのライセンスが求められます。専任教員なので任期が限られているわけではなく、実習関係の科目担当やコーディネートが主要な業務となるため、実習以外の授業やゼミなどは担当しません。つまり、実習を専門とする教員として、実習領域での成果が業績となりプロモーションも他の教員と同等となります。日本の社会福祉士養成においても、名称はともかく、実習教育を専門とする専任教員の配置が可能になることによって、実習担当教員が疲弊することなく質の高い実習教育が行われ、結果として優秀なソーシャルワーカーが養成されることになるのではないでしょうか。定年退職まで後1年、27年間実習教育を担当してきて考えたことです。

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