日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.49

アポリア連載

ニュースレター45号より、「アポリア連載」が始まりました。

 「アポリア連載」は、本学会の研究対象は「高等教育における社会福祉専門教育」という認識のもと、さまざまな高等教育機関に所属する会員の皆さまが社会福祉教育のあり方を考えるきっかけとなれば、という想いより本連載を始めました。

 第5回目は、本学会副会長である小山隆会員(同志社大学)です。

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「大学院教育を考える」

日本社会福祉教育学会 副会長 小山 隆(同志社大学)

 本学会のニュースレター45号からアポリア連載は始まった。各回のアポリアのテーマが「高等教育」、「専門学校教育」、「短期大学教育」、「大学教育」と続き、今回の「大学院教育」へと繋がっていることからも、本学会の名称が示す「社会福祉教育」の内容が多様であり一筋縄ではいかないことが確認される。そして「アポリア」という連載テーマから類推するに、本稿も答えが一つではない状況(難問)に対して会員が「単一の正解探し」をせず、自由に論じることができるように刺激することが求められているのだろう。

 確かに、専門学校から大学・大学院まで教育機関は多様であり、国家資格に必要な実習教育から大学院における最新の知見を追求する理論系講義まで求められる内容も多様である。油断すれば、会員といえどもお互いに別なタイプの問いには無関心、極端に言えば排他にすらなりかねない。例えば、社会福祉士養成科目中でも実習教育にかかわる者は大学院の国際実習担当者の話などには関心をもたず、逆もまた同じといった状況である。このような「バラバラ」ともいえる現状に対してわれわれはどのように向き合うべきなのだろうか。

 答えは出ないが、議論を展開するための論点・観点をもっておくことは必要だろう。例えば、高等教育を論ずるときに「教習所型」と、「劇場型」に例えて区別することがある。そのさす意味はバラバラであるが、概ねの一致するところはある。多くの方には周知のことの繰り返しになるが、改めて補助線としての意味とそれを乗り越えていくことの意味を主張しておきたい。

 自動車運転免許証を取得するための教習所は、獲得されるべき運転技術にレベルの違いがあってはならないし、獲得のための教習内容、時間等も統一的に定められている。社会福祉士・精神保健福祉士等の資格養成課程はこのカテゴリーに属し、前号の白川副会長によるアポリアにある「コアカリキュラム」の議論もその流れに属するだろう。そして、大学教育全体が大きく言えば、結果保障・結果責任を問う意味でこの流れに向かっている。シラバスの厳格化、ポリシーの策定など大学教育の「品質保証」をする動きは急である。大学院教育においてこの流れに沿うものとしては、大学院教育のカリキュラムを『認定社会福祉士』の科目に寄せていく方向が考えられるだろう。一年前のデータであるが、23大学院に183科目が設置されている。科目の認証審査については認定社会福祉士認証・認定機構によって相当厳密に行われており、学部の社会福祉士養成に続く大学院レベルの専門職養成としての質の担保はできていると思われる。専門職養成としての「大学院」の在り方の方向の一例は確かに見えかけているといえそうである。

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 一方、劇場型の高等教育とは何か。小説を読み、映画や劇を見るとき我々は、多様な作品の中から自由に選ぶ。そして、その作品から読者や観劇者が何を感じどう学ぶかは本人の自由である。作者が(願いはあるにせよ)「作品をこのように感じなさい」などと指示することはできない。大学における教養課程の(古いタイプ?の)科目などがあたるだろう。大学院についていえば、上の認定社会福祉士志向の大学院の場合などは別として、比較的多くが劇場型(自由度が高い)といってよいかもしれない。ここで確認しておきたいことは、決して、劇場型の科目が悪いとは思えないということである。このことの展開の余裕はなく、宿題としたい。

 また、上の二分類で触れきれない大学院の役割として研究者養成というものがある。これは教習所型の科目構成でも、劇場型の科目構成でもその目的を果たしきれない。大学院(特にドクター)の最重要のテーマでありながら、議論・標準化が進んでおらず、個々の教員の職人芸的な側面も残っている。

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 紙幅の関係で議論はできず話題提供のみになるが、教習所型、劇場型、職人芸型の三つの補助線をもとに大学院教育を今後議論していきたい気がしている。そして、このことは決して大学院だけでなく、他の教育機関における教育を考えるにあたっても一定有効なのではないか(有効にしていきたい)とも思うのである。

 もちろん、第四第五の軸もありそうである。

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