日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.49

専門教育とは、「〇〇〇」である!

 ニュースレター45号より始まった「専門教育とは、「〇〇〇」である!」は、「実践者・研究者、各々の立場で「専門教育」について考えるきっかけとなれば…」という思いより、スタートしました。

 若手研究の方や現場実践の方を中心に、その人自身が考える「専門教育」とは何であるのかを「〇〇〇」という一言で表現してもらい、その理由(何を以て専門教育としているのかなど)などを教えていただく内容です。

第5回目は、村山くみ会員(東北福祉大学)の熱い想いをお届けします!

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専門教育とは、「創造的な問いを立てられる力を育むこと」である!

村山 くみ(東北福祉大学)

 私が考える「専門教育」を一言で表現すれば、「創造的な問いを立てられる力を育む」ことになります。一般に専門教育という語は、専門的知識を体系的に学ぶことや技術的技能を習得することを中心に捉えられがちですが、ソーシャルワーク領域の実践は、生活課題の複雑性や多因子的構造を前提としており、知識を単線的に蓄積するだけでは十分に対応することはできません。現実の生活課題は、家族関係、社会的・経済的構造、地域文化、個人の生活史など、複数の要因が相互に影響し合うことで生じており、既存の概念枠組みだけでは課題の本質を捉え損なう可能性があります。そのため、対象者の生活世界を多角的に捉え直し、背後に潜む構造や意味を再構成するための思考が求められます。このような実践的要求に応えるためには、自ら「創造的な問い」を立ち上げる力が不可欠であると考えています。

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 創造的な問いとは、支援の前提や背景を批判的に吟味し、「この状況の理解に他の可能性はないか」「別の視点から見れば何が見えてくるのか」といった新たな認識枠を切り開く問いを指します。ソーシャルワーク実践の基盤には、生活者の視点に立ち、本人との協働によって課題を整理し、支援方針を検討する過程があります。しかし、生活困難の背景には、利用者自身が十分に言語化できていない要因や、制度的枠組みでは捉えきれない社会的・構造的要素が潜んでいることも少なくありません。そのため専門職には、表面的な訴えの背後にある文脈や潜在的ニーズ、そして未認識の強みに目を向けるための問いを生成する能力が求められます。こうした創造的な問いは、問題状況の本質的理解を促すとともに、支援構築に向けた仮説形成を可能にするという点で、理論と実践を架橋する重要な機能を担っています。

 さらに、専門教育ではエビデンスに基づく知識や理論的枠組みを理解することが不可欠ですが、個々の生活課題は常に文脈依存的であるため、一般化された知識をそのまま適用することには限界があります。このような状況において必要となるのが、知識を状況に応じて再解釈し、支援に結びつけていくための思考様式です。したがって、専門教育が育むべきは、固定化された「正解」を暗記する態度ではなく、適切な問いを立て続けることを通して知識の意味を動的に再構築する力であり、創造的な問いは専門的判断の根幹を支える基盤となります。

 加えて、現代のソーシャルワーク実践は、多様な社会的変容に直面しています。こうした状況において実践者には、未知の課題に対しても分析の視点を自律的に創り出し、支援の仮説を構築・検証していく力量が求められます。これらのプロセスの起点となるのが創造的な問いとなります。問いの質が高まれば、地域資源の再編、新たな協働の仕組みづくり、制度の補完的活用など、実践の展開可能性を広げることができます。

 実践を更新し続けるソーシャルワーカーにとって、創造的な問いを立てられる力は、自らの実践を省察し、新たな支援のあり方を創造していくための出発点となります。ソーシャルワークの専門性は、こうした探求的姿勢と実践的判断力によって支えられており、専門教育はその発展を下支えする重要な基盤であるといえます。

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