日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.50

アポリア連載

 ニュースレター45号より、「アポリア連載」が始まりました。

 「アポリア連載」は、本学会の研究対象は「高等教育における社会福祉専門教育」という認識のもと、さまざまな高等教育機関に所属する会員の皆さまが社会福祉教育のあり方を考えるきっかけとなれば、という想いより本連載を始めました。

 今号で「アポリア連載」は最終回となります。第6回目は、本学会監事である福山和女会員(ルーテル学院大学)です。

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まとめー高等教育の将来像を考える

日本社会福祉教育学会 監事 福山 和女(ルーテル学院大学名誉教授)

アポリア連載

 ニュースレター・アポリア連載:「高等教育を考える」が、第6回で一区切りをつける。これまでのまとめをする番が回ってきた。論文テーマのもと、5人の執筆者は研究者、学者の見解を述べている点で興味深いものである。志水幸氏(社会福祉教育学会会長)「アポリアとしての高等教育における社会福祉教育」、川廷宗之氏(当学会・前会長)「アポリアとしての、高等教育における専門学校教育を考える」、阪口春彦氏(当学会理事)「短期大学教育を考える」、白川充氏(当学会副会長)、「大学教育を考える」、小山隆氏(当学会副会長)「大学院教育を考える」。全員が大学教授として活躍されている。

 まず、アポリアの定義は、志水氏の会長挨拶から引用すると、「アポリアは哲学的難題または問題の中の一見解明できそうにない行き詰まりのこと」(志水2026)である。本アポリア連載は、社会の現状での一見矛盾していると思われる前提を考察し、当学会の今後の進むべき道を模索する上で、参考になるものである。

 次に、「まとめ」とは、情報や内容を整理して、一つに集約することと考えれば、筆者が、それぞれの学者の見解の整理と集約をすることはできない。各学者の独自性の尊厳の保持から考えると、それは難しいことである。日本社会福祉教育学会は、2005年10月31日に設立され、その発起人による設立趣旨は,「社会福祉やソーシャルワークの『危機』の時代での実践・理論・教育・研究・教育の改革・再編」(2026 志水)であった。

 アポリア全5回分の連載内容を参考にして、筆者が遭遇した出来事が高等教育のアポリア的志向と関連があった2つの事象を述べてみよう。

 (その1)2000年に高齢社会の介護の社会的負担の軽減のために介護保険制度が制定された。1998(平成10)年7月29日に教育課程審議会の答申で、高校に専門教育に関する教科「福祉」の設置が決定された。それを機に、全国的に教科福祉の教員免許取得のための3か月間の研修が実施された。各都道府県から推薦を受けた受講者、一か所500人規模の研修で、筆者は、科目「演習」を担当した。受講者の態度は、怒りの感情に満ちていた。彼らは、教員免許取得者の英語教諭である。英語教員の数を減らすことを目的に、福祉の教員免許の取得を強制的に命じられ、福祉の授業をする責任が課せられた。彼らは口々にいった。「高校には障害児童はいませんよ。私たちの専門は英語です。」と。つまり、社会福祉制度や施策が教員の専門性の変更を推薦という形で実施させたのである。英語から福祉への強制的切り替えの要請は、その教員の人権侵害であるようにも思える。その悶々としている教員が、「高校生に人権擁護を教える」ことには一見矛盾がある。筆者は、授業内容を大きくギアチェンジしたが、「福祉を教える」こととは、専門性の質がそれぞれの主体、教育者、受講者、生徒に大きく影響を及ぼし、その成果までも左右することを強く実感させられた。

アポリア連載

 (その2)教えることと対になる、学ぶことについて考えたい。筆者がカリフォルニア州立大学バークレー校大学院公衆衛生修士課程で 地域精神保健について学んでいた頃、1920 年出版のアメリカ史上初の「教育心理学」の教科書を読んだ。教育の専門家にとっての心理学の必要性を説いたものだが、最初のページに、「人は なぜ、学ぶのか?」との問いが書かれていた。なぜか非常に強く心に響いた。続いて、「もしも、あなたを取り巻く周りのものが、常に同じ状態であるならば、全く変化しない状態であれば、あなたは何も学習する必要はないでしょう。」「でも、私達を取り巻く環境は、秒速で、刻々と、少しずつ変化しています。私たちは、誕生と同時に生きることを開始し、その後常にこの環境の変化に対応することが求められています。新しいことを学習する必要性はそこにあるのです」と。

 高等教育についてのアポリアに戻ろう。この理解しがたい「学習とはなにか」、「教育とは何か」の問いに対して、5名の学者が、高等教育、専門教育、短期大学、大学、大学院という制度・「器」についてそれぞれ定義し、高等教育体制システムの多側面から概説し、その内容は、それぞれのシステムの交互作用のさまを描写していたと筆者は、理解した。

 そこで、筆者は、システムの相乗効果から、高等教育体制について考えてみた。その結果、そのシステムは12システムに整理できた。各システムにおける要素をサブシステムとして分析した(表1)。その分析例として文部科学省高等教育法の大学の規定文を示す。

システムサブシステムー細項目
1.体制の質同質・異質性、独自性、共創・協働体制
2.周囲の環境ミクロ、メゾ、マクロレベル
3.教育機関専門教育、専門高校、短期大学、大学、大学院(大規模・小規模)
4.教育者専門領域、資格、経験年数
5.教育の内容理論、知識・概念、方法・技術、理念の提供(教授・研究)
6.教育の目的専門領域研究、資格、教養、学問、実践、トレーニング
7.教育の目標能力の養成・ミクロ、メゾ、マクロレベル(観察、理解・分析・応用・理論化)
8.学習者高校生ー大学院生ー社会人
9.学習の目的理論、知識・概念、方法、技術、理念(道徳的)の習得
10.学習の目標能力取得:ミクロ・メゾ・マクロレベル(観察、理解・分析・応用・理論化)
11.教育過程・時間短期→長期
12.教育効果評価項目(12システム)
表1:高等教育体制の構成要素12システムの相乗効果  (2026筆者作成)

 「大学(3)は、学術知識(5)授け専門の学芸を教授研究し(6)知的、道徳的および応用的能力(10)展開させることを目的としている。」(()内の数字は、システム項目番号であり、サブシステムは太字で強調)

 この大学の規定では、12個のシステムの中から、システム3,5,6,10の交互作用の相乗効果を取り上げ、そのサブシステムとして、学術知識の提供、専門性の教授研究、学習者の能力養成を含めている。

 このシステム的分析から、高等教育のアポリアの解を見出すことができればという期待を持つが、社会状況の困難な現状では、まだまだ高等教育についての将来像を創造することは困難なことであると理解した。

参考文献

福山和女(2009)「対人援助職の心得:人の理解」『福祉介護機器technoプラス / 福祉介護機器』technoプラス編集委員会 編 2 (4), 40-44.
藤井佳子(2020)「高等学校福祉科教員養成の現状と課題に関する一考察-福祉科教育法の実践を通して」『教職研究』第34号 73₋86.立教大学 教職課程
志水幸(2026)日本社会福祉教育学会ホームページ「会長のご挨拶」
矢幅清司(2000)「教科『福祉』創設と基本方針」矢幅清司・細江容子編著『改訂高等学校学習指導要領の展開―「福祉」編』明治図書

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