日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.22

2014年7月25日発行

巻頭言

「学習権」宣言は、「宣言」に留まるのか

先日、公開講座の受講生の方からお手紙をいただいた。この公開講座は毎年ほぼ同様な内容で開かれていて、私も年 1 回のことであると気軽に考えてここ数年、ほぼ同じ内容でお話をしてきた。テーマは「ソーシャルワークにおける学習権」の重要性である。この「学習権」という言葉や、そのユニークな定義は、1985 年のユネスコの成人教育会議においてまとめられた「学習権宣言」に基づいて解説するのが解りやすい。まだ、この宣言に基づく「学習権」の内容や意味を知らない人が多いため、また「学習」とは何を意味するのかを丁寧に考えたことがない人も多く、多くの方々はある種の発見のまなざしで丁寧に聞いていただける。

しかし、この受講生はこの公開講座を聞くのが 2 回目であったこともあり、最初はともかく 2 回目の講座の終了後、法学部出身で生活保護ケースワーカーとして働かれていた経験を踏まえつつ、前年とあまり変わらない内容に新たな問題提起を送っていただいた。

その提起の内容は、要約して言えば、できるだけ受講生が参加していく講義方法を称賛したうえで、内容面で①「学習権」は「教育を受ける権利」とどう違うのか、②「学習権」という権利を主張するのであれば当然その見返りとして国家等の義務をどう考えるのか、③障害児等が普通学級の授業を妨げるので困るというようなカンファレンスの場合、一般児の「学習権」が保証されないという言い方をされている事例には、どう考えるのか、(そういう教育界の一般的使われ方としての「学習権」という用語に配慮しているのか) ④確かに「学習権」は「社会改革の起爆剤」となりえるだろうが、そこに至る実践的道筋をどう描いている(現在の日本の「学習権」を保障しない教育システムをどう変革していく)のか、⑤貧困など、学習権を奪われていく現状への対応をどう考えるのか、といった内容であった。

正直なところ、とても緊張させられた。色々な場面で講演に招かれることは、現場にいた時代からあり、特に大学に勤務するようになってからは、毎月のようにどこかで講演を行ってきた。その中で感想に関するお手紙をいただいたことは有るが、たいていは感動したなどのお褒めの言葉が多く、このような問題提起のコメントをいただいたのは初めてである。講演にしばしば出向くようになった初期の頃から 10 年以上は、講演後に必ず簡単なコメントカードの記入をお願いし、反応を確認してきたが、極めて忙しくなってきたせいもありここ 15 年くらいはそういうこともしなくなっている。つまり、伝承型の授業ではいけないのだと言いながら、結局はそれに甘んじるようになってきたということであろう。「学習権」の話をしながら、授業者の「学習権」をその場で実現していくというのは容易なことではないが、しかし、それが求められている。言行不一致では、話に迫力は出てこない。

このような意味で、あらためて、もう一度一つ一つの取り組みに、もっと真剣に取り組まなければならないなあと、つくづく反省させられた。そして、先の 5 つの問題提起への実践的回答が必要である。基本的には、主題である「学習権」の実現に向けての行動である。もちろん、運動としての展開もあるだろうが、これらの問題提起に応えていくためには、当然もっと確りした理論武装が必要であり、そのために学習と研究を一層深める必要がある。という事で、問題提起への解答は、今後の課題としたい。
特に、この種の国際宣言は、国内においてどれだけの意味を持ちうるかは、時の行政官公庁の姿勢に支配されることが多い。このユネスコの成人教育会議に関する宣言に関しても、1965 年の生涯学習に関する宣言は大きな意味を持ち、当時の文部省内で、社会教育局を生涯学習局に変えていく原動力なってはいる。然し、その後のユネスコでの様々な活動や宣言に関しては、日本の政治や行政では顧みられていないものも少なくない。

もちろん、日本には日本の文化があり、国際宣言の内容が国家を超越して素晴らしいものばかりとは限らない。然し、多くの場合は、世界の秀智を集めて徹底した議論の上での合意として成り立つ宣言だけに洗練された内容が多いと考えられる。従ってこれらの宣言を日本国内でどう実現を図るかは、大きな課題である。

その意味では、官公庁ではない民間団体(NPOなど)が、これらの課題に どう取り組むかは大きな意味を持つ。本学会も、一つのNPOとして、これらの課題から目を離さずに取り組んでいきたいものである。

会長 川廷宗之(大妻女子大学)

目次

  • 巻頭言
  • 特集:ルーブリック試案②
  • 次期役員選挙の結果報告
  • 第10回鹿児島大会
  • 会員の声~私の福祉教育~
  • 学会探訪⑪:日本保健医療社会学会
  • お知らせ

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日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.22[1.47MB]

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