日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.30

2017年12月25日発行

巻頭言

『学生のエンパワーメントに対して社会福祉養成教育が行うべきこと 』

数十年前から、ソーシャルワークの世界ではエンパワーメントが主要概念の一つになっており、様々な研究や活動が行われてきている。先日、この概念に関連した映画『ドリーム』を観る機会を得た。

この映画は 1960 年代にアメリカ南部において、白人と有色人種の分離政策が行われていた時代に、 NASA に計算係として雇われた 3 人の黒人女性を軸に進んでいく。3 人とも大変優秀なのだが、男性が多い NASA の内部で激しい偏見と差別にさらされ続けていく。例えば、天才的な数学の力の持ち主であるキャサリンは、有人宇宙船計画の核となる宇宙特別研究本部に初の黒人で女性スタッフとして配属されるが、キャサリンが使えるトイレは同じ建物内には設置されておらず、800 メートルも先の非白人用のトイレを使わなくてはならない。また、本部内でのコーヒーポットは「白人用」と「非白人用」に分けられている。特に印象的だったのは次の場面である。後に夫となる軍人と初めて食事会で出会った時に、NASA に勤めていると言った彼女に対し、彼は「大変だ、女性にそんな仕事を・・・」という言葉を投げかけるのだ。その時にキャサリンは、次の言葉で切り返す。「私はウエストバージニア大学の大学院初の黒人女性。毎日排気の圧力や摩擦や速度の解析をしている。平方根の計算も何万回としている。NASA で女性を雇っている理由は職場の花だからじゃない、眼鏡をかけているからよ」と言い、自らの眼鏡を指で持ち上げるのである。そのような状況のなか、持ち前の力を発揮しながら周囲の理解を勝ち取ってプロフェッショナルとして承認されていく姿は、まさにエンパワーメント過程そのものといえよう。

このエンパワーメントの概念について Gutiérrez は「個々人が彼らの生活状況を改善するための活動を行うことができるよう、個人的、対人関係的、政治的パワーを増強するプロセスである」と定義している 1)。また Cox らはエンパワーメント・アプローチの 4 つの次元について、①個人的次元、②対人関係的次元、③ミクロな環境および組織的な次元、④マクロな環境および社会政治的次元 2)と定めている。以上のようなエンパワーメント・アプローチを行ううえで、非対称的な社会・経済システムの変革という政治的次元への働きかけがが不可欠なことはいうまでもないが、同時に個人的次元、対人関係的次元へのアプローチの主要な手段である教育は重要である。キャサリンは、類い希なる数学の才能の持ち主ではあったものの、学校教育のなかでそれを職業に生かせる力にまで昇華し、さらに厳しい職場環境のなかで働き続けられたのは、やはり教育のなかで培った自信や誇りがあったからではないだろうか。

さて、ここで社会福祉養成教育に目を転じてみると、やはり教育における学生達のエンパワーメントは欠かせない課題である。とりわけ私は、養成校の学生達はソーシャルワーカーに向けた 3 側面の力量を育てること、つまり 3 側面におけるエンパワーメントが必要であると考えている 3)。①ソーシ ャルワークの価値・知識・技術を適切に統合し発揮する力、②各種システムとの関係構築を行う力、③ 専門的自己を確立する力の獲得である。そのためには、教員側もますます戦略的にならなければならない。学生の学習進度とニーズに応じて、教育内容と教育方法をマネジメントし臨機応変に提供する必要がある。すなわち、時代の流れのなかでソーシャルワーカーに求められるものは何か、それを目指す学生が今いる場所はどこか、どのような教育を行えばそれが可能になるのかという複雑な交互作用を常にアセスメントし、教育を行い、成果を出していかなければならない。キャサリンのような自信と誇りと実力を持ったソーシャルワーカーを育てるべく学生達のエンパワーメントを促すこと、それこそが今私達に課せられた大きな命題であり、腕の見せ所でもある。

立正大学 保正友子

目次

  • 巻頭言
  • 第13回大会報告
  • 大会参加者の声~
  • 2017年度総会報告
  • 理事会報告
  • 会長就任あいさつ
  • お知らせ
  • 編集後記

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